初めての教会と日本のイメージ

 8月4日、体調も無事に回復した。今日は日曜日なので、クラリスに誘われて教会に行くことにした。礼拝は10時から始まり、バイクで小1時間かかるというので、8時50分には出ようと昨晩決めていた。ということで、2人とも8時に起きた。ところがクラリスは起きるなり、
 
    "Do you want to try this?"
 
と言って、起きたばかりの私にマニキュアをし始めた。しかもなんか雑。自分のはじっくり時間をかけて丁寧にやっていた。もうこの時点で私は8時50分出発はあきらめた。そしてそれが終わると電話を延々としている。ましてや8時半過ぎて朝ごはんを食べ始めた。案の定、出発は9時半ほどになった。
 

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クラリスに施されたネイル
 バイクタクシーを拾って教会まで行った。ちなみに私はクリスチャンではないが、ベナンカトリック教会は誰でも受け入れてくれるようだ。到着すると、恐ろしいほどに注目を浴びた。そりゃそうだろう。彼らからすると、"Youは何しに教会へ?"状態だろう。しかし、クラリス曰く拒絶の眼差しではなく、単純に外国人を教会で見ることがおそらく全くと言っていいほど無いからだそうだ。
    我々は当然、10時からの礼拝には間に合わなかったので、11時からのを待つことにした。日陰にベンチがあったので座っていると、明らかに好奇心の眼差しで私を見つめる3人の子どもたちがいる。柱に隠れながら見ているが、3人もいるのだからはみ出しすぎである。隠れきれておらず、バレバレなのにもかかわらず、じーっと見つめてくる。たいてい子どもは、好奇心の眼差しで見て、1人の勇気ある子どもが近づき、握手かハイタッチを交わして私が害を与える人間でないことが分かると、残りの仲間がぞろぞろとやって来るものだ。
    ところがこの3人は、好奇心の眼差しで見つめてきて、こちらが手をふると一気に警戒心が溶けたのか、3人で押し寄せてきた。1人ずつ握手をしたのち、何とあろうことか膝の上にも乗ってきた。しかも土足でよじ登る、といった具合にだ。おいおい、警戒心無さすぎだろう、と思ったが構わず抱っこもせがみ、膝の上に座ろうとするのは何とも愛おしい。そして言葉が通じないがゆえに私は特に何も喋っていなかったところ、そのうちの1人の女の子が横にいたクラリスに何かを言った。クラリスが訳してくれた。

    "She is wondering why you are silent. She wants to hear your voice."

    なるほど。言葉が通じないがゆえに黙っていたが、彼女たちにはそんなことお構い無しだったのか。言葉が通じなかろうがなんだろうが、言葉を交わすことが大事なのか、と思った。そこからは、全く通じなかったが、英語を話した。散々抱っこもして、膝の上にも乗せて、写真を撮って、教会に来て私は一体何をやっているのかと思ったが、待ち時間を楽しい時間に変えてくれた子どもたちに感謝している。時間が来て、バイバイするときはいつまでも手を振ってくれた。
 

  

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教会で出会った子どもたち

と、なんだかエンディングのようになっているが、ここから私たちは教会に入ったのである。教会の中は思ったより和気あいあいとしており、静粛な厳かな感じはしなかった。隣り合った人同士で会話を交わし、外国人の私にやはり注目はしているが、拒絶の目ではなかった。
    礼拝はフランス語で行われていたようだ。何を話しているのか全く分からないので、とりあえずクラリスと同じ動きをしておいた。隣には1歳くらいの赤ちゃんを連れたお母さんが座っていた。2度見するほどの美人なお母さんであった。赤ちゃんもめちゃくちゃ可愛い。時折赤ちゃんが私の髪をつかむ。礼拝中なので好きなだけつかませておいてあげた。口にも入れていたが、抜かれさえしなければいいだろう。
    ふと、音が気になって横の親子を見ると、何とお母さんが授乳をしていた。これは思わず3度見した。日本ではあり得ない光景だ。日本ならば、外で授乳をする際には必ずケープのようなものを被って見られないようにするものだが、ベナンでは礼拝中に何も隠しもせずに授乳をするのか。神様の前で。なぜか一瞬私が悪いことをしている気分になったが、誰も気に留めていない。何よりお母さん自身が気にしていないなら、まあいいのか。
    礼拝が終わり、外に出た。はじめての礼拝は、話は全く分からなかったが雰囲気を楽しむことは出来た。その後、この教会で司教をしているクラリスのお兄さんと挨拶を交わし、クラリスのお姉さんの旦那さんもどうやら司教のようで、彼につれられて私たちは教会の関係者室のようなところでお昼ご飯をいただいた。中には2人の司教と思われる男性がいた。クリスチャンではない私が司教とご飯を食べることが許されるとは、何とも寛容だ。2人の男性とは英語が通じたので、少し話もした。中国人かと聞かれたので、日本人ですと答えた。ベナンに来てから何度となくされる質問だ。彼らに、

    "What's the difference between Chinese, Korean and Japanese?"

    と聞かれた。確かに彼らからすると、何も違いなどないだろう。我々ですら外見上はなかなか見分けづらい。
 
    "I recognize them by their hairstyle, fashion or face."
 
と答え、お返しに、
 
    "How do you recognize Beninese, Ghanaian and Nigerian?"
 
と聞いた。彼らも興味深そうに、うーんと考えなから答えてくれた。要約すると、どうやら肌の色、体格、顔などが若干違うようだ。私にはちっとも分からないが。
 彼らはアジアの中でも特に日本に憧れがあると言ってくれた。トヨタ、ホンダなどの日本の車やバイクは本当に優れている、と。リップサービスかもしれないが、技術大国の日本の良さがベナン人に伝わっていたと思うと、なかなか誇らしい。
    寝る前に、いつものようにクラリスと話していたとき、クラリスに言われた。
 
    "Maki,  I was surprised to know Japan is the most developed country."
 
教会での司教との会話のことを言っているのだろう。
 
  "Yes. Japan is famous for its high technology. We have a lot of tall buildings."
 
と言って、東京タワーやスカイツリーの写真を見せても最初は信じなかった。というのも、私が撮った写真は下から眺める図なので、クラリスには全体像がつかめなかったようだ。グーグル画像検索で2つのタワーを見せたところ、自らのボディをたたきまくりながら熱狂した。
 
    "Oh my GOOOOOOOOD!!"
 
を何度も繰り返した。さらに、この建物の中に入ることができ、上まで上がり、町を見下ろすことができると話すや否や
 
 "NOOOOO WAAAAAAAY!!!"
 
と発狂した。その後しばらくは日本の技術について話していた。クラリスはとても興味を持ってくれた。2人の司教もクラリスも、日本については本当に良いイメージを持ってくれている。
 だが、果たしてそれは正しいのだろうか。ハイテクノロジーは確かに素晴らしい。日本の技術者には頭が下がる。しかし、それを使っている私たちは本当にそれを「正しく」使えているだろうか。豊かな暮らしの代償となる負の側面にも責任を持っているだろうか
 ベナンに来て、"I'm Japanese."と言うと、とてつもなく歓迎される。嬉しさの一方で、どこか違和感のような、騙しているような感覚を持つ。日本に憧れる青年に、自信を持って「日本に来て下さい」と言えるだろうか。日本は、あるいは日本人は、彼らのイメージを壊すことなく彼らを歓迎してくれるだろうか。
 次このような機会に出くわしたら今度はちゃんと言おうと思う。日本にだってたくさん問題はあるということを。毎日のようにどこかで親に虐げられたり、いじめられたり、何かに追いつめられて子どもたちが命を落とす。毎日のようにどこかで働き過ぎが原因で命を落とす人がいる。毎日のようにどこかで殺される人がいる。外国人に偏見もある。原発だってある。自然災害もある。もしかしたら戦争も始めるかもしれない。決して日本のネガティブキャンペーンをしたいのではない。正しく伝えたいだけだ。物事を知るということは、良い側面だけでなく悪い側面も知らなくてはならないということだ。そしていつの日か、そのような日本の悪い面を知ってもなお、「マキの国に行ってみたい」と言ってもらえるように私が頑張ればいいだけだ。