痛恨のミスと綺麗な五角形

 9月22日(火)、今日は午後から出かける用事がある。ベナンに到着してから、14日が経過したので再び PCR 検査を行わないといけないのだ。クラリスは仕事があるので、クラリスにバイクタクシーを呼んでもらい一人で行くことにした。

 今日、私は痛恨のミスをした。私はてっきり、また空港で受けると思っていて、バイクタクシーにも事前に空港に行く旨を伝えていた。しかし、何の気なしに在ベナン大使館のサイトを見ていると、新着情報というところに入国者の PCR 検査と RDT 検査の流れが載っていた。事前にこれを読んでいれば、入国時に検査の流れが分かってスムーズだったなと苦笑いをしていたのだが、読み進めると苦笑いではなく、顔が青ざめた。何と、そこには2週間後の検査の流れも書いていた。それによると、どうやら入国者は3日後に国際展示場(Palais des Congres)という場所に行き、そこで2回目の PCR 検査の日時を教えてもらえるそうだ。そして、空港ではなく、この国際展示場で2回目の検査をするのだそうだ。
 ちびまる子ちゃんのごとく、顔に縦線が入るくらいにサーっという音がした。大使館は何も悪くない。私がちゃんと見ていなかっただけだ。私のように、何も組織に属さず個人で来ている人は、より一層大使館が出している情報を見ていなくてはいけなかったのに。完全に2週間後にまた空港に来れば良いと思い込んでいた。
 すでに仕事に向かったクラリスに、もうすぐやって来るバイクタクシーに行き先を変更してもらうようお願いした。基本的にクラリスは、バイクタクシーの運転手が私と直接連絡を取ることを避けたがる。道を走っているバイクタクシーを捕まえるのではなく、個人的に電話をして来てもらうということは、クラリスが以前利用したバイクタクシーで、かつ信用出来ると判断したのだろう。しかしそれでも、クラリスは自分の手間をかけてでも、私のことを守ってくれる。まあ、言語の問題があるからでもあるが。
 ということで、クラリスに事情を話し、行き先を国際展示場(Palais des Congres)に変更して向かった。午後2時にと言ったはずだが、やって来たのは午後3時過ぎであった。1時間遅れはベナンではあるあるだし、謝らないのもあるあるだ。しかし、相手に1時間遅れて来られたのは久しぶりだ。クラリスからすると、これが "Welcome to Benin" なのだが。
 バイクタクシーに乗るのは、実はとても楽しみにしていた。ヘルメット無しで乗ることはもちろん危険ではあるが、風を感じられるし視界も遮られないし、気持ち良いのだ。ベナン南部は海が近いから、潮風をもろに浴びるので、髪はバッサバサになるが。

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バイクタクシーに乗りながら撮った海の写真。
 40分程で到着した。とてつもなく大きな建物だ。さて、ここからは戦いだ。クラリスはいないし、私は現地語もフランス語も話すことが出来ないので、グーグル翻訳か英語で何とか切り抜けるしかない。

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国際展示場。
 入り口付近でバイクタクシーを降りたはいいが、建物までが遠すぎるし、何も案内が出ていない。入り口で警備をしていた人に尋ねると、"blue" と言われた。かすかに、青いテントのような屋根がある区画が見えた。そこに行けということか。そこに着くと、その青い屋根の下で多くの人が座っていた。まじか、この中を待つのか、と思って、受付らしき人のところへ行き、尋ねると、"Go over there." と言われた。そちらに向かうと、また別の方向を指して、"Go over there." と言われた。そちらの方に行くと、"Go to that door." と言われた。その that door に向かうと、誰もいなかった。またクラリスの声が聞こえてきそうだ、"Welcome to Benin" と。そしてまた受付付近に戻って来ただけであった。私が向かった先を線で繋げると見事に五角形になりそうなくらい、綺麗に一周回っただけであった。落ち着け、ここは日本ではない。システマティックになっていないことくらい、慣れているはずだ。スタンプラリーだと思えば良いのだ。最初に尋ねた男が近くにいた。その人も、なぜお前はまたここにいるのだ、という顔をしながらも、一生懸命英語で対応をしてくれた。"Go to that door." と言われたからここに来たが、誰もいない、と説明をした。すると、そのドアの中で、お金を払うことになっていたらしい。検査費用のことだ。ところが、その人は、しきりに"No connection." と言っていた。恐らくその検査費用を徴収するにあたって使用するパソコンが接続されていないということだと思う。その理由を聞いても、残念ながら知らないとのことだ。停電は起こっていないようだが。ということで、お金を払うことが出来ないから明日また来てくれ、とのことであった。まあまあバイクタクシーで時間をかけて来たのに、また明日来なければならないのか。明日何時に来れば良いのか、と聞いたら、朝9時から開いているとのことだったから、明日また出直すことにしよう。
 またすごすごと入り口に向かった。すると、バイクタクシーのドライバーがわんさかいた。彼らは、ここで客を待っているのだ。しかも、ここで PCR 検査をやっているということは、空港を利用した人が出入りしているということだ。すなわち、お金を持っていそうな外国人が多く出入りしていることを知っている。だから、ここで客を待ち構えているのだ。当然、私が入り口に近づいた時点ですでに私を手招きして、自分のバイクに乗るように言っている。クラリスは、ここまで送ってくれたドライバーに、そこで私が来るのを待ち、さらに家まで送るよう命じていた。当然待たせる分、少し上乗せして払っているが。だから、このわんさかいるバイクタクシーの中に、私のドライバーもいるはずなのだが、何しろ今日初めて会ったばっかりだし、皆バイクタクシーであることを示す黄色い Tシャツを着ているから、どれが私のドライバーかが分からなかった。このまま行くと、明らかに他のドライバーの中で揉みくちゃにされるし、時に彼らは非常に手荒で、無理やり手を引っ張ってくることもある。少し手前で、クラリスに電話をした。今日はとんぼ返りで、明日また行かなくてはいけなくなったことと、ドライバーがいすぎて自分のドライバーがどれかが分からないことを告げると、クラリスが、
 
     "OK, I'll tell him to come to you."
 
と言ってくれた。その間も、ドライバーたちは私に激しく訴えかけてくる。クラリスは早速電話をしてくれたのか、すぐに、一人のドライバーがゆらりとこちらに近づいた。王子様、ではないが、何だか救世主のようにも見えた。そうそう、こんな人だったな、と思い、彼の後に続いてバイクを止めているところへ歩いて行こうとすると、他のドライバーたちが、私のドライバーに一斉に抗議をし始めた。明らかに喧嘩をしている。私のドライバーは、ヒートアップすることなく冷静に何かを言い返していたが、それでも他のドライバーは掴みかかりそうなくらいに何かを彼に言っている。怖い。私の前で、喧嘩が始まってしまった。ベナン人は基本的に穏やかで、そんなに声を荒げている人は見たことがない。そんな中、激しく言い合っている。途中からあまりにも怖くなって、ドライバーについて行く足を止めてしまった。すると、近くでご飯を食べている人がいたのだが、その人が私を見て、仲裁に入った。喧嘩をしかけてきたドライバーたちに何かを言うと、一斉に皆が私を見始めた。そして、ヒートアップしていたドライバーは一斉に鎮火した。何を言っているのかは全く分からないが、「怖がっているじゃないか、やめろよ」みたいな感じだろうか。
 そのおかげで、私はドライバーのバイクに無事にまたがることが出来た。怖かったが、その後の運転は全く問題無かったし、無事に家にも到着した。帰ってきたクラリスに今日の出来事を話すと、恐らく皆お金を稼ぎたいし、外国人だから高くお金を取れると思ったのに、ふらりとやって来たドライバーに横取りをされ、明らかに元々約束をしていたことが他のドライバーの逆鱗に触れたのではないかということだ。クラリスの言う通り、そんなことだろうなと思う。
 明日、またもう一度行かなくてはならないのが億劫だ。そして、またシステマティックでない所へ放り込まれるのだろうか。果たして明日は、何角形を描くのだろうか。