再び PCR 検査とクラリスの優しさ

 9月23日(水)、今日は朝からまた出かけることになっている。昨日とんぼ返りとなった、PCR 検査を再び受けに行くのだ。現在ベナンでは、入国者は全員入国時と2週間後に PCR 検査を受けることになっている。朝9時から開いているとのことなので、クラリスに朝8時にバイクタクシーに来てもらえるよう手配してもらった。

 珍しく私の方が朝早く出ることになっても、クラリスは私のために朝ご飯を用意してくれる。朝7時に起きて、準備をした。雨季のベナンでは、いつ雨が降るかも分からないので、レインコートは必須だ。喉が乾くかもしれないから、ペットボトルの水も必要だ。Wi-F iモデムが無ければネットにも接続出来ないから、忘れずに入れた。スマホやモデムが充電切れになった場合に備えてモバイルバッテリーも必要だ。ベナンで出かける際には、色々と持って行くものがある。
 朝8時過ぎくらいに、バイクタクシーが到着した。昨日と同様、気持ち良い風を浴びながら、40分程で同じ場所に向かった。
 到着すると、まずはまた受付で自分がここに来た目的を告げた。昨日受付にいた男の人と同じ人だった。私のことも覚えていたので、話は早かったのだが、また "Go over there." と言われたので、そこに向かうと、"Go to that door." と言われた。いかん、昨日と同じパターンではないか。危うく今日は六角形を描くことになってしまうところであった。that door に向かうと、そのドアの前に椅子があり人が並んでいるようであった。自分が来るべき場所はここで良いかを確認するために、ドアを開けて尋ねると、椅子に座って待てと言われた。ところが、空いている椅子は無かった。立って待っていると、スタッフと思しき人が椅子を持って来た。そして、フランス語で何かを話しかけてきたが、私は英語しか話すことが出来ないと言うと、
 
      "Do you have the number?"
 
と言った。手に番号札みたいなものを握っていたので、恐らく number とは、その番号札のことだろう。持っていない、と答えた。というか、それを持っていなくてはいけなかったことすら知らなかった。すると、先ほどの受付にいた男性が、この男性に何かを言った。そして、この男性は私について来るよう言い、どこかへ誘導した。そこは、また別のドアの前であった。2人、ドアの前で待っていた。そして私は3番目の椅子に座ることになった。なぜ、先ほどの、大勢の人が並んでいるドアではなく、このひっそりとしたドアに案内されたのかは謎である。まあ、早く済みそうだから良いのだが。
 前に2人しかいなかったので、あっという間に私の番になった。ドアの中に入ると、男性が2人いた。そして、名前と国籍と入国日を告げ、 パスポートを返してもらいたいことと検査をもう一度受けたい旨を伝えた。今日はちゃんとパソコンが接続されているようなので、手続きもうまくいっている。無事にお金を払った。今度はどこに向かえば良いのかを尋ねると、またとある場所に誘導された。そこに向かうと、領収書を出すよう言われた。そして、担当してくれた人が、
 
     "China?"
 
と聞いてきた。この質問も慣れている。中国人かどうかを聞いているのだ。ベナンでは、アジア人は中国人のイメージがあるからだ。日本人だ、と答えると、
 
     "I like Japan."
 
と言われた。この国は実に親日家が多いと感じる。そして、その人から、今更ながらではあるが、入国時に受けた PCR 検査の結果を受け取った。ちゃんと、"Negative" と書かれていた。
 そして、今度はどこに行けば良いのかと尋ねると、建物に矢印が書かれた張り紙があるから、それに沿って行くように言われた。ところが、それに沿ってたどり着いたある入り口に入ると、たくさんドアがある。どのドアに入るべきかが分からない。何も案内が無かった。2階に通じる階段があったので、上ってみるとまたドアがたくさんあった。どれに入ったら良いのだろう。あるいは、ここではなかったのか。もう一度矢印を辿ってみようと降りてみた。しかし、確かめてみても、やはり矢印はこの建物を指している。誰かに聞きたいが、誰もいない。すると、ある外国人がここを目指してやって来た。その人も、ここへ来るよう言われたのだろうか。同じように階段を上ったので、ついて行ってみることにすると、その人もどのドアに入ったら良いか迷っていた。すると、幸い、とあるドアから人が出て来た。何の案内もなかったが、他の人は一体どうやってこのドアに入ると認識出来たのだろうか。入ってみると、広い部屋の中に椅子が置いてあった。受付らしき人に、検査結果と領収書を渡すと、椅子に座って待てと言われた。
 10分程待っていると、
 
     "Tata Kurashina"
 
と言われた。「タタ」は、ベナンで女性の名前を呼ぶ際につける言葉だ。日本語でいうと、「〜さん」に近い。行ってみると、私のパスポートを持っていた。ついにここでパスポートを返してもらえるのか。
 受領の証としてサインをし、次にどこに向かえば良いか尋ねた。2回目の PCR 検査を受けたいと言うと、また別の人に誘導された。違う部屋で椅子に座って待っているよう言われたので、座っていると、スタッフらしき人が私を手招きしている。近づいてみると、何と、
 
     『コンニチハ。』
 
と言われた。突然の日本語に面食らっていると、
 
 『ニホンジンデスヨネ?』
 
と聞かれた。そうです、と答えると、その人は自分を指差しながら、
 
 『ジカ、ジカ』
 
と言った。これもベナンで何度となく聞いた言葉だ。だからすぐにピンと来た。「ジカ」とは、JICA(ジャイカ)のことだ。日本語でいうと、青年海外協力隊のことだ。恐らくこの男性は、ジャイカと関わりがあったのだろう。だから、日本語も挨拶程度なら知っているのだ。その後は、英語に切り替えた。どうしてここで待っているかと聞かれたので、2回目の PCR 検査を受けたいのだが、ここで待つように言われたと伝えた。すると彼は、受付を他の人に任せて、自分について来るように言った。
 その道中、彼は英語が不慣れであったようだが、2011年に日本に行ったことを教えてくれた。 来日の目的は、"Training" と言っていたから、何かの研修だろうか。日本がとても好きだとも言っていた。今日この場所で、2人も親日家に出会った。彼は、とある場所に私を連れて行き、そこにいた女性スタッフに何かを言った。礼を言うと、彼は去って行った。
 そして、女性スタッフにまたパスポートを見せると、彼女はカルテのようなものを書いていった。
 
     "Why are you in Benin?"
 
と聞かれた。これはカルテに関係なく、恐らく興味で聞いたのだろう。今回ベナンに来た目的は、英語を教えるためというより、プロジェクトのためである。しかし、それを説明するのは少々面倒臭いので、
 
     "To teach English."
 
と言うと、他の女性スタッフに何かを言い、そこからミニ英会話レッスンが始まった。これは英語で何と言うのか、あれはどうだ、と聞かれた。私の年齢である32は英語で何と言うのかと聞かれたので、thirty-two と言うと、thirty-two という発音を一生懸命真似ていた。ベナンのこういうところが好きだ。日本だと、初対面の人同士でこのような会話は生まれないだろう。
 それが終わると、隣の部屋に案内された。そこに看護師らしき人がいた。私が入ると、フェイスシールドを被り、綿棒を用意した。また喉をグリグリするのかと思ったら、今度は鼻であった。また容赦無くグリグリして、検査は終了した。結果は金曜日に出るそうだ。
 無事に2回目の検査を終えた。到着してから約1時間半程であったか。思ったより早く終わった。しかし、帰る際にも色々なところで大行列が出来ていた。なぜ私が、この大行列をすっ飛ばしてスイスイと進むことが出来たかは謎である。
 夜、友人と久しぶりに電話をした。その友人は、今とある悩みを抱えていて、聞いているうちに思わずもらい泣きをしてしまった。寝室でぐすんぐすんと泣いていると、クラリスがやって来た。電話中の私に、
 
     "Maki, are you crying?"
 
と言った。日本人だと、電話中に、しかも泣いていて若干シリアスな雰囲気だと放っておくことが一種の優しさと見なされるが、クラリスは泣いている人は放っておかない。
 私のことではない、友人がちょっと問題を抱えているから、と説明をしたのだが、それでもクラリスは心配してくれた。更に、その友人に向かって、
 
     "Be positive. I hope everything will be fine."
 
と言った。思わず笑ってしまった。クラリスのこういうところが好きだ。私だったらきっと、クラリスベナン人のことで泣いていたら、放っておいてあげた方が良いかな、と考える。もちろん、これは日本人にとっての優しさだと思っている。しかしクラリスは、日本人だろうがベナン人だろうが関係なく、泣いている人を放っておかない。そしてそれが、私であろうが、私の友達であろうが。
 その友人も、さっきまで泣いていたのに突然クラリスが入ってきたものだから、気がつくと笑顔になっていた。クラリスが去ってからも、しばらく2人で笑っていた。本当にすごいな、と思う。日本人の放っておく優しさも好きだが、こうやって誰だろうが構わず入ってくる優しさも好きだ。特に、クラリスは無邪気だから嫌味もないし、図々しさもない。
 クラリスはこの Blog の愛読者でもある。グーグル翻訳は、私のこの感謝の気持ちもちゃんと翻訳してくれているだろうか。いつもありがとう、クラリス