到着のお知らせと『そもそもベナンとは?』

 7月31日、日本を出てから丸一日経過して、ついにベナンに到着した。今回はフライトの大幅な遅れはなく、エチオピアでの乗り換えもスムーズであった。いつか、2018年に始めてアフリカに行ったときのことも記そうと思うが、前回はとにかく散々な目にあったのだ。
 さて、ベナンに着いたがいいが、そもそも、『ベナンとは?』と思っている方もいるのではないだろうか。『ベナンに行きます』と言うと、人々の反応は大体4パターンに分類される。それを紹介しようと思う。🐰が私で、🐤が話した相手である。

①5人に2人の割合
 🐰「7月ベナンに行きます」
 🐤「あー、東南アジアかどっかの?」
 🐰「それは ”ペナン” です。」

②5人に1人の割合
 🐰「7月ベナンに行きます」
 🐤「…あー、ダナンね。」
 🐰「…いや、絶対 "べ" って聞こえてたよね?何で "ダ" にした? 」

③5人に1人の割合
 🐰「7月ベナンに行きます」
 🐤「…ん?ベナン?ナニソレ?(ドコソレ、ではなく、ナニソレ)」
 🐰「えっと、国名…」

④5人に1人の割合
 🐰「7月ベナンに行きます」
 🐤「はい?」
 🐰「えと、ベナンへ…」
 🐤「ん?」
 🐰「いや、だからベナンにちょっくら…」
 🐤「え?」

 とまあ、このような反応をされてきた。①②は気持ちは分からないでもない。ペナンもダナンも実際に存在する地名なのだから。③は「ベナン」とは聞き取れているのでまだ良いが、④に至ってはそもそも日本人同士なのに会話が成立しない。それほどまでに日本ではベナンという国は知名度が低かった。私もはじめてアフリカに興味を持つまでは知らなかったのだから偉そうには言えまい。ゾマホンさんの国として知っている方もいるが、若者、特に私のかつての生徒たちは知らなかった。私の出発直前に、NBAの八村さんが活躍したおかげで、今は日本でも知名度が高まりつつある。
 地図を確認すると、西アフリカに位置していることが分かる。南北に細長い国で、西にトーゴ、東にナイジェリアがある。治安は安定しており、これまでのところ、何か危害を加えられたり危ない目にあったことは無い。人々は穏やかで、外国人に対しても寛容である。かつてはフランスの植民地であったため、学校教育はフランス語で行われるとのこと。つまり、学校に行った人ならばフランス語も話す。ただし、ベナン人はそれぞれの種族で異なるlocal languageも持っている。宗教は民族固有の宗教が最も主流で、他にキリスト教イスラム教などもある。アフリカというと「暑い国」と思うかもしれないが、場所によっては日本より涼しい。私がいる地域は海に近いこともあり、風がふくと夏は日本より圧倒的に涼しい。朝晩は扇風機無しでも良いくらいだ。日本からのアクセスは、最も現実的なのはエチオピア航空を使って来ることだろう。成田➡韓国➡エチオピアベナンという経路で到着出来る。ちなみに日本では、ベナンに行く際には黄熱病の予防接種がマストだと言われるが、私が2018年に行ったときも今回の渡航も、証明書の提示を求められなかった。ただし、成田空港では必ず提示を求められるので、やはり接種をしないと出国は出来ないかもしれない。他にも、私は念のため黄熱病の他に、A型肝炎破傷風、腸チフスの予防接種を打っている。4種一気に打ったため、副作用で背中に激痛が走ったが、数日で治った。マラリアに関しては残念ながら予防接種は無い。短期間ならば日本でも処方される、1日1錠の薬を飲んで予防することも可能だが、長期間では費用が嵩むため、とにかく蚊に刺されないように予防するしかない。寝るときの蚊帳は必需品である。
 と、これがざっとベナンに関しての紹介である。本当に『ざっと』で申し訳ないが、私もまだ滞在歴が浅いので、語れることなどは無いのだ。
 到着すると、空港で前回お世話になった方々が出迎えてくれた。私をルームメートとして迎えてくれたクラリスともすぐに会うことが出来た。そして何と、私を雇ってくれたリオネルさんも迎えに来てくれているとのこと。何というVIP待遇。クラリスは、リオネルさんの学校を卒業しているので、クラリスにとってリオネルさんはかつての先生、恩師とも呼べる存在だそうだ。
 クラリスとリオネルさんの車に乗って、3人でクラリスの家に行くことにした。道中クラリスもリオネルさんもひたすら歓迎の言葉をかけてくれた。あたたかく迎えて下さるのは本当にありがたい。丸一日飛行機に乗っていた疲れも吹き飛んだ。しばらくすると、リオネルさんにこう尋ねられた。

  "Maki, are you hungry?"

正直なところ、腹は減っていなかった。機内食も食べたし、到着したばかりで時差ぼけもあったため、空腹というよりは疲労を感じていた。しかし、リオネルさんは食べることが大好きなのだ。おそらく彼は腹が減っているのだろう。

  "Um...I'm a little bit hungry, but it's not an emergency."

と答えた。すると、リオネルさんは、

"Maki, I said, "Are you hungry?" This is not about whether or not it's an emergency. Me? I'm hungry."

と、聞かれてもないのに自分は空腹だと言われれば、彼に従わざるをえないだろう。3人で食事に向かった。道中、彼は車の中で爆音で音楽をかけた。それだけならまだしも、何とハンドルから手を離して躍り始めた。車やバイクがバンバン走る道中でだ。すかさず言った。

"Please concentrate on driving."

すると彼は、

"OK, I'll try."

と言った。"try"ではなく、ちゃんと運転していただきたい。ハラハラしながら恐怖のドライブが終わり、入ったのはカフェ的なところで、ケーキやらクレープやらちょっとした軽食やらが置いてあるお店であった。前回会ったときもそうであったが、リオネルさんは私に空腹感を一切感じさせないほどに頼むのだ。もう食べきれません、ご勘弁を、と懇願するまで頼むのだ。そのことを思い出して、あまりお腹は減っていないので、甘いものを少しだけいただきます、と伝えた。「少しだけ」を強調した。ところがリオネルさんは、何を思ったのか、ショーケースにあるケーキを1つずつ頼もうかと言い始めた。何を聞いていたのだろうか。とんでもない、食べきれません、1つだけで十分です、と真剣にお願いをした。チョコレートが好きなので、チョコレートのケーキが食べたい旨を伝えると、店員さんにそう伝えてくれたようだ。ところが店員さんは少し困った顔をして何かを言った。リオネルさんが訳してくれた。

  "They have many chocolate cakes. Do you want to eat all of these?"

 リオネルさん、何を聞いていたのだろうか。1つだけ、と言ったのに、どうしてチョコレートのケーキを全て注文することがあろうか。1つだけお願いします、食べきれません、と懇願して、ようやくおいしそうなチョコレートケーキを1つ注文することに成功した。クラリスは珍しく腹が減っていないということで何も注文しようとしなかった。それもリオネルさんが説き伏せて、アイスクリームを注文していた。リオネルさんはパスタを注文した。食事は本当に楽しかった。リオネルさんは"Let me eat first."が口癖の割には自分から話を振ってくる。そして前のめりになって話すので、私たちのテーブルは必ず動く。
 楽しい食事に夢中になって、私はうっかりと忘れていた。リオネルさんは、私の皿が空になると、必ず追加注文をするのだ。『しまった』と思ったときには時すでに遅し。あっという間に何かを注文されていた。出て来たのは、特大のアイスクリーム、しかも2つ。アイスクリームならば何とかいけるか、と思ったがチョコレートのケーキを食べた後にチョコレートのアイスクリーム2つ…我ながら本当に頑張って食べた。ついに食べ切った。フルマラソンを完走したかのような満足感を得て、スプーンを置こうとしたその刹那、

"Maki, you can eat it."

と言って、リオネルさんに指差されたのは、アイスクリームの下についている、日本でもおなじみのコーンの部分。ぎくっ。そ、そこまでは食べきれなかったのだ。『あっ、これ食べられるんだ〜♪』などと知らなかった風を装ったが、クラリスがじーっとそれを見つめていたことに気がついた。

"Can I eat it?"

クラリスから聞いてくれたので、速攻で差し出した。それにしてもクラリスは腹は減っていないと言っていたと思うが。
 食事が終わって、3人でクラリスの家に向かった。クラリスの家は横に長いアパートで7軒ほど連なっている。一番奥がクラリスの家のようだ。扉を開けると、一人暮らしでどうしてこんな広いリビングが必要なのかと思わず突っ込みたくなるリビングがあり、寝室、キッチン、トイレ、浴室があった。トイレも水洗で、シャワーもあり(注:私はこの2週間後にシャワーの存在に気がついた。それまでは浴室の普通の蛇口から出る水で髪も身体も流していた。)、良い部屋である。クラリスは、部屋には男性は入れたくないと前から言っていた。クラリスに限ったことではないが、やはり年頃の女の子は、いくら恩師と言えど男性を家に入れるのには抵抗はあっただろう。ところがリオネルさんは全くおかまい無しである。ずかずかと入っては、クラリスに次々と「ここに◯◯を置きなさい」「ここはもう少しきれいにしなさい」「これはどかしなさい」とダメ出しをしていく。そして、私用のベッドはすでにクラリスが用意をしていてくれていたが、マットレスはまだとのことなので、明日買いに行きなさいとリオネルさんに言われた。マットレスのブランド名や柔らかさまで指定された。
一通りダメ出しが済んだところでリオネルさんは帰った。クラリスに、夜ご飯を用意してもらった。はじめて食べるクラリスの手料理はとても美味しかった。
ベナンでは風呂場でも水しか出ないことが一般的だ。お湯が出ることが当たり前だと思っている私は修行僧のように水を浴びて床についた。マットレスが無いので、今日はクラリスと同じベッドで寝る。
寝る前に色々と話した。とにかく一緒に住むことが出来て嬉しいと言ってくれた。本当にありがたいことだ。このあと、まもなく様々な事件が起こることなど全く何も知らないかのように、ぐっすりと眠った。

写真はクラリスの手料理「マ(ア)」
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