衝撃的な日本のニュースとビザ更新

 10月15日、もうすぐベナン滞在3ヶ月となる。従って、観光ビザがまもなく切れるため、更新に向かうことになっていた。

 実は前日14日も昼過ぎに更新に向かったのだが、あまりにも混雑しており、営業時間内であったのにもかかわらず、早々に締め切られ、門前払いを食らってしまった。普段はそれほど混むことは無いそうだが、ビザの更新だけでなく、パスポートの申請なども同じところで受け付けているため、たまにこのように一度に人が押し寄せる日があるらしい。運悪くその日に当たってしまった。
 14日に撤退して帰ってきてから、ヤフーニュースを何気なく見ていると、衝撃的なニュースのタイトルが目に入った。とある小学校で、先生が先生をいじめたというニュースだ。最初、冗談かと思った。関心を集めるためにわざと変なタイトルをつけたのかと思ったほどだ。しかし、そのニュースを読んで、そして関連ニュースも読んでようやくこれが実際に起こったものであることが分かった。海外にいても日本のニュースはネットで見れるが、何しろ電波が悪くてそんなに見れないのだ。ちょっとニュースを見ていなかった間に日本ではこんなことが起こっていたのか。加害者である教員に怒りを感じたことは言うまでもないが、そんなことは私が言わなくてもすでに市民の間で私刑が始まっているようだ。本当はコテンパに罵ってやりたいが、口が悪いので言わないでおく。
 しかし、こういう不祥事が起こる度に、本当に真面目な先生たちまでもが同じ目で見られるのが嫌だ。そして、ますます子どもたちが先生を信用しなくなっていく。以前、とあるベナン人の少年に、『どうして日本の子どもは先生を尊敬しないのか。』と聞かれたが、こんな状況で尊敬してくださいという方が無理な話である。庇うつもりは一切ないが、日本全体がプレッシャーやストレスに押しつぶされてものすごく大きなひずみが出来ているのを象徴している事件だと思った。こう見えて意外と繊細な私は、実は結構この事件に胸を痛めていた。
 15日の朝、この話をクラリスにした。私は近い将来、クラリスを日本に連れて行く計画を立てている。クラリスは少々日本にステレオタイプを持っており、ユートピアのようなところだと思っている。実際に来て日本の現実に打ちのめされて欲しくないから、私は日本の良い面だけでなく、悪い面もしっかりと伝えている。
 話したとき、クラリスは最初、全く意味が分かっていなかった。もちろん、英語力の問題ではない。bully というものは通常ベナンの学校では起こらない。従って、クラリスにとっては bully がどんなものであるかもおそらくはっきりと分かっていない。ましてや、先生が先生を bully したということが、クラリスにとっては全く意味をなさないのだろう。
 
    "Everyone thinks Japan is a great country..."
 
と言われてしまったが、仕方ない。しかし、日本には素晴らしい面だってたくさんある。総じて私は日本が好きだ。クラリスが学ぶことだって多くある。良いところと悪いところをしっかり伝えた上で、日本に行くかどうかはクラリスが決めれば良い。
 ということを考えつつ、前日の反省を踏まえて今日は早めに出発した。更新に必要な添付書類は昨日の時点で用意してある。ちなみに何が必要かというと、写真(6枚入りで1500セファ)、パスポートコピー(大量の失敗作も渡されたため、もはや何枚入りなのかも知らないがとりあえず500セファ)、そして入国管理局で書く書類である。写真はコトヌー写真屋さんで撮ってもらった。事前に知人に聞いた話だと、『なぜそこを?』というところを謎に修正されるらしいので、とても楽しみにしていた。撮ってくれたのは、若いお兄さんで、本当にふつーのカメラでふつーに撮られた。ベナン人お得意の、指入り写真もしくはブレブレ写真になっていないだろうかとヒヤヒヤワクワクしていた。しかし、出来上がった写真を見て、指入りでもなく、ブレブレでもなく、何の修正も入っていなかったのでちょっとつまんなかった。平凡な顔が平凡に写っているだけであった。この写真ならちょっとくらい修正してくれた方が良かったな、と思った。そして、前髪が伸びていないな、と思った。

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顔だけ異常に白いのは修正されたのか。血の気が無かったのか。
 さて、またもや入国管理局は混んでいたが、どうにか今日は入ることが出来た。通訳として来てくれたベナン人の友達シルヴィに手伝ってもらいながら、書類を書き上げた。書類には一応、フランス語と併記して英語表記もあるのだが、線がずれていたり、スペルミスもあり、公式の文書なのに実に雑な作りであった。そのくせ、青ペンでないと受け付けないとか(担当者による)、線からはみ出たら書き直しとか(担当者による)、フランス語で書かないと受け付けないとか(担当者による)、こっちに対して色々厳しいのはどこの国のお役所でも同じなのだなと思った(全国の役所勤めの方、ごめんなさい)。ちなみに知人は過去に16回書き直しを命じられたことがあるそうだ。慎重に、間違いが無いように書き上げた。そして、シルヴィについて来てもらいながら、担当者に渡した。シルヴィと何やら笑いながら話している。いいぞ、良い雰囲気だ。そのまま受け取ってくれ。頼むからちょっと線からはみ出たところは見逃してくれ。祈るように愛想笑いをしながら、何を言っているか分からない2人の会話を聞いていた。すると、シルヴィが書類を突き返されて、苦笑いをしながら、
 
    "Let's go."
 
と言った。ガーン、書き直しか。一体何がダメだったのか。聞くと、この担当者は英語が読めないそうで、フランス語で書けとのことだ。だったら最初からそう指示してくれ。大抵は英語で書いても受け付けてくれるということだったから英語で書いたのに。しかし、書類を突き返す前はシルヴィとあんなに笑顔で話していたではないか。一体何を話していたというのだ。後から聞いた話だと、どうやら『次回ビザの更新に来る際には、ベナン人と結婚していればこういう面倒な手続きは要らないよ。』というようなことを話していたらしい。ビザが切れるまで3ヶ月。一体3ヶ月でどうやってベナン人と結婚しろというのか。そもそも面倒な手続きにしているのはそちらではないか、と言いたかったのをグッと堪えた。シルヴィに手伝ってもらいながらフランス語で何とか書き上げた。そしてまた担当者のところへ行った。今度はきちんと受け付けてもらえた。
 続いて、顔認証と指紋認証である。担当の人に呼ばれて行くと、何とパンを食べながら、ジェスチャーで私に『そこに座って。』と指示した。あまりにも顔にデコボコが無いからだろうか、顔認証に時間がかかっていた。近づいたり、遠ざかったり、髪を後ろにやったり、色々試したが、ことごとく私の顔は認証されなかった。それまで、一応愛想笑いをしていたのだが、何回もやり直されたので思いっきり疲れた顔をしたところで、担当のおば様が、『あ、出来た。』のような顔をして、指でオーケーサインを出された。デコボコが無いだけでなく、愛想も無い顔が私の本来の顔ということか。
 お次は指紋認証である。こちらは簡単であった。ただし、私の身長に見合っていないところに台があったため、座って指を置くと認証されないと言われた。立ちながらグーっと指に力を込めて、これでもか、というほどに指を押し当てた。指紋認証は簡単に終わった。
 後は、レシートのようなものを受け取って、3日後の金曜日に取りに行くだけだ。ここまで来るのに車で1時間かかるのだ。ましてやシルヴィにも毎度ついて来てもらうのも申し訳ない。頼むから金曜日にちゃんと受け取れるように準備をしていてくれ、いや、していて下さい。祈りながら帰路についた。