新しく始めた仕事(Secondary school)

 2月12日(水)、今日から新しく別の仕事を始めることになっている。クラリスが見つけてきてくれた primary school と secondary school の一貫校である。私が勤務することになっている "ベリ" で給料未払い事件があったときに、クラリスがもう他の学校を見つけるべきだと言っていたのだ。そして、私の一時帰国中にいくつか学校を探しておくからと。そして実際、私がベナンへ戻る1週間ほど前にクラリスから、良い学校が見つかったと連絡が来た。

 ベナンへ戻って来てから10日が経とうとしているのに、未だベリでの仕事が再開しない。嫌な予感しかしない。またあの給料未払い事件が勃発するのだろうか。リオネルとクレオパトラにも何度も連絡しているのに、『ちょっと待って。』だの『あとで連絡する。』だので、先延ばしにされ続けている。それならば、クラリスが言うように別の仕事を探すのも一つの手だ。ベナンでは仕事を掛け持ちすることは当たり前のことだし、勝手に別の仕事を持つことは失礼には当たらない。
 ちなみにクラリスが見つけてきてくれた学校というのは、私が初めてベナンに行ったときに見学をさせてもらったところだ。奇しくもその学校とまた縁が出来たということになる。そしてこの学校は、英語とフランス語のバイリンガルを育てるための私立の学校だ。
 初日である今日は、クラリスも交えて校長先生と話をすることになっている。クラリスから事前に聞いた話では、給料についての具体的な話は校長先生とは出来ていないとのことだが、外国人の私を受け入れることに関しては積極的であるという。しかもこの学校は、私とクラリスが住む家から徒歩圏内でもある。
 ということで、朝クラリスは自分の仕事の予定を調整して、私について来てくれた。懐かしい。1年以上前に訪れた学校ではあるが、外観や校長室は覚えている。あのときは残念ながら校長先生が不在で会えなかったので、今回が初対面ということになる。
 校長先生はとても気さくな方であった。給料については、次の年度始まりである9月から払える準備をしてくれるとのことだ。それまでは、交通費は払ってくれるそうだ。徒歩圏内ではあるが、校長先生なりに何かを支払わねば、と思っているのだそうだ。
 校長先生は、早速今日から授業をしてほしいと言ってきた。出た、ベナン人お得意の無茶振り。何の準備もしてきていないではないか。ちょうど、日本に滞在していたときに、ご厚意で絵本を大量にいただいた。いつかベナンで使いたいと思っていたのでしっかり全ていただいて帰った。また、スピーカーも持ってきているので、クラリスと一旦家に取りに戻った。
 再び学校に戻った。今日は、secondary school で教えるらしい。ベナンでは、8時から12時までが午前の授業で、その間、10時から20分ほど休憩が入るらしい。そして、お昼に一旦生徒は家に帰って昼ごはんと休憩を取る。そして15時にまた学校に戻り、17時まで授業を受けるそうだ。そして、今日私は12時まで教えるのだそうだ。
 早速校長先生ともう1人の先生に連れられて、教室に向かった。その途中、ある教室に立ち寄った。クラリスが、日本人の方からいただいた文房具をとある男の子にあげたいのだという。その男の子は、学年で一番の成績を取っただけでなく、他の年上の子たちをも凌ぐ勢いだという。校長先生から、文房具の一式がその子に手渡された。

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男の子に文房具が手渡される様子。
 続いて向かったのは、secondary の教室だ。日本でいう、高校生にあたる。この学校でもまた、アジア人を雇うのは初めてだそうで、教室に向かう途中で、子どもたちがものすごく好奇な眼差しで見てくる。もちろん差別や拒絶ではなく、ひっきりなしに手を振り、近づいてハグを求めてくるのだ。さすがに secondary の教室は若干静かではあったが、私が入ると熱狂的な声を上げた。なかなか体つきも大人ではあるが、まだやはり幼さもある。挨拶の印として、彼らにも鉛筆をあげることにした。彼らはまあまあ英語は理解出来ているということなので、完全に私一人が残され、クラスを持つことになった。

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校長先生から鉛筆が手渡され、興味津々なご様子。
 自己紹介をして、私が日本からやって来たことを伝えた。さすが secondary 、早速質問が出た。
 
    "Why did you come to Benin?"
 
と。
 
    "I want to teach in another country."
 
と言うと、納得していた。
 今日は、日本でいただいた絵本を使ってみるつもりだ。生徒は20人いるので、4人グループに分けて、グループに本を1冊ずつ渡した。グループで読み合いっこをし、分からないところは私に聞くように指示した。彼らは実に真面目で、与えられた絵本を実にじっくりと読み始めた。この絵本は、日本語と英語のバイリンガル用のもので、日本語訳も載っている。しかし、当然彼らには分かるはずがないので、必然的に嫌でも英語で読まなければならない。

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絵本を読んでいる様子。
 あまりにも一生懸命読んでくれたので、休憩を挟んだのち、プレゼンをしてもらうことにした。グループごとに、本のタイトルを紹介し、その要約をしてもらうのだ。また、そのあとリスナーや私からの質問に答えたりする。ということを彼らに伝え、いざプレゼンが始まった。
 英語の summerize という言葉の意味を、しっかり理解出来ていたようだ。長すぎず、短すぎず、良い感じにまとめられていた。リスナーからの質問も程よく出ていた。
 その後、1時間ほど時間が余ったので、生徒たちに何かリクエストは無いかと聞いたところ、何と日本語が習いたいという。ということで、ここからなぜか日本語講座が始まった。
 生徒たちが順に、
 
    "How do you say, 'Hello'?"
 
などと聞いてくる。実に様々な表現が出てきた。思わず笑ってしまったのが、"I'll slap you!" の日本語訳を聞かれたときだ。女の子に聞かれたので、『叩くわよ。』にしようかと思ったが、男の子もメモを取っているので、『叩きます。』にしておいた。他にも、"I love you." やその逆の "I hate you." の意味も聞かれた。彼女たちは、一体いつこの表現を使うというのだろうか。どこの国でも、学校では女の子が強いというのは変わらないのだな、と思った。
 この日本語講座が盛り上がってきたところで、途中で男の子が立ち上がって私に近づいてきた。英語で、
 
    "Will you marry me, in Japanese?"
 
と聞いてきた。そして、私に求婚するようなポーズを取ったので、女の子たちが一斉に立ち上がり、
 
 『タタキマス!!』
 『ダイッキライ!!』
 
と言って、その男の子を私から剥がし、さらに英語で、
 
    "Sit down!!"
 
と言い放っていた。まさか数分前に教えた日本語がこんなにすぐに使われることになるとは思わなかった。私があまりにも笑い転げていたので、生徒たちも笑っていた。こうして笑っていると、全然日本の学校と変わらないなと思う。アフリカという遠く離れた場所にもかかわらず、こうして笑いながら授業が出来ているのが何だか奇跡のようにも感じる。環境も教材も全く違うけれど、教える楽しさや生徒のかわいさも全然変わらない。
 授業時間が終わったことを告げると、生徒たちは名残惜しそうにしてくれた。生徒たちが写真を取ろうと言ってきたので、私がスマホを用意すると、一斉に寄ってきた。これからもこの子達を教えることになるのかは分からないが、また教えられると良いなと思う。

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最後の記念撮影。