再び The Very Hungry Caterpillar とマドゥシ

 2月19日(水)、今日も先週から始めた primary school での授業がある。水曜日と木曜日に英語の授業があるそうだ。家から徒歩圏内なので、歩いて学校に向かっていると、バイクを運転している男性に話しかけられた。後ろに子どもが乗っており、私が向かう学校の制服を着ている。フランス語だったので、何と言ったのか分からないが、手で学校がある方角を指し、さらにバイクの後部座席も指差した。どうやら「乗れ」ということらしい。子どもも満面の笑みで手招きしながら前に詰めている。子どもは私が教えている子だろうか。とりあえず、遠慮なくちゃっかり乗り、バイクでわずか数分ほどの学校まで連れて行ってくれた。学校に到着すると、また子どもたちが次から次にやって来て挨拶をしてくれた。中にはすでに名前で呼んでくれる子たちもいる。

 教室に入ると、早速また子どもたちが駆け寄って来てくれた。今日は、先週とは違うクラスでまた The Very Hungry Caterpillar を使う。同僚のランドリーが私を紹介してくれた。先週と同じように自己紹介をした後、ランドリーは、「じゃ」というように消えた。この学校に限らず、どこの学校も先生が足りていないので、ランドリーは別のクラスで授業をしなければならない。それでも先生が足りないので、先生がいないときは、自習という名のお遊びの時間になるらしい。従って、どうやら付き添ってくれるのは先週の初回だけだったということだ。
 仕方ない。どうせ英語の授業なのだからフランス語やフォン語(現地語)は使う必要はない。子どもたちには私がフランス語もフォン語も話せないということは伝えたし、子どもたちには悪いが、頑張って英語を話してもらおう。
 結論から言うと、特にこの日は大きな問題は無かった。乾季真っ只中なので、この学校では授業中に外の水飲み場に水を飲みに行くことが許されているのだが、子どもたちは先生の許可を取らなくてはならない。その際もちゃんと、
 
     "May I go to drink water?"
 
などと言うことが出来ていた。現地語もフランス語も通じないこの私に、子どもたちはたくさん英語で話しかけてくれた。時折、ランドリーが様子を見に来てくれたが、特にアシストすることなくまたすぐに消えていった。
 このクラスでも The Very Hungry Caterpillar は大人気であった。パソコンを食い入るように見つめ、青虫が次々に色々な食べ物を食べているということが分かると、『まだ食べるの〜?』というような反応をしていた。こういうところ、本当に日本の子どもたちと変わらないな、と思う。そして、途中から男子が野次を飛ばしてそれを女子が注意し、少しうるさくなり始めたときに私が
 
     "Be quiet."
 
と言うと、一番うるさかった奴が率先して、
 
     "Be quiet!!!!!"
 
と叫ぶ。それをみんなが、『いや、お前だよ。』というように突っ込んでいる光景を見ると、ここは日本か、と錯覚するほどである。不思議だな、と思う。見た目がこんなに日本人と違うのに、子どもの特性はこんなに似ているのか。
 やはり面白い現象はこのクラスでも起こった。先週、2クラスで The Very Hungry Caterpillar を行ったとき、チャンツのリズムがベナンの子どもたちにはノリづらかったのか、勝手にアレンジをしていたのだが(もちろんそれは良いことなのだが)、私はこの2クラスだけに起こったことなのかと思っていた。というのも、まだ年齢的に10歳未満の子どもたちなので、認知的なものだと思っていた。今日教えているところは、大半が10歳を超えている。果たして、このクラスでも同じ現象が起こるのかと思っていたら、全く同じであった。これも不思議だな、と思う。日本でこのチャンツを用いていたときは何ら問題なく子どもたちは真似をしていたのだが、どうやらベナン人にはノリづらいリズムらしい。そして、彼らのアレンジしたチャンツは、逆に私にはノリづらい。音感というのだろうか。これは何が原因で起こる現象なのかは分からないが、とりあえず面白いということは言える。
 そして、このクラスには男の子と女の子で1人ずつ非常に英語が出来る子がいる。
 
     "Can you summarize this story in English?"
 
と聞いてみると、彼らは率先して手を挙げた。まず、summarize という言葉の意味が分かるのがすごい。若干10〜12歳の子たちである。しかも、「要約」という言葉にふさわしいほど立派にこのお話の内容を説明出来ていた。女の子の方は、女子のリーダー格といった感じで、苦戦している子たちの良き先生となってくれた。また、授業の最後に数人ずつ前に出てチャンツを発表してもらったのだが、この男の子と女の子は少々英語力が危うい子たちの側に行って、アシストまでしてくれていた。日本より圧倒的に物資に乏しい中で、彼らがどうやってここまでの英語力を身につけたかは謎ではあるが、とりあえず良きリーダーが男の子と女の子で1人ずついるのはありがたい。
 この日は2時間をこのクラスで過ごした。たっぷりチャンツも練習し、最後に Head Shoulders Knees and Toes と BINGO を歌って終わった。

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チャンツを発表している男の子たち。

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Head Shoulders Knees and Toes を歌っているところ。

  帰り道、どこからか、
 
     "Maki!!"
 
と言われて、振り返ると、近所に住む男の子が手を振ってくれていた。彼の名は、マドゥシ。10歳くらいだが、学校には通っていない。クラリス曰く、彼は学校に行くことを拒んでいるそうだ。それよりも、技術的なことを習得したいのだそうだ。私は学校に通うべきだと思っているが、彼の意思がない以上、他のもっと大勢の学校に行きたい子どもたちを支援しなければならない。ただ、マドゥシはこうして私の名前を覚え、見かけては呼びかけ、どこで覚えたのかは知らないが、
 
     "Good morning."
 
とよく言ってくれる。ちなみに昼に会っても "Good morning."、夜に会っても "Good morning." ではあるが。学校に行くことだけが全てではないが、学校に行かない限りフランス語が身につかない。現地語だけで、彼はこの先、生きていけるのか、と考えると一瞬不安がよぎるが、この先何年か経って彼の中で、『昔近くにアジア人が住んでいて、そいつが英語話していたな。』と私のことを思い出してくれたら嬉しいなと思う。フランス語でなくても、彼にとって英語が1つの選択肢として加わったら良いな、と都合の良いことを考えながら家に帰った。