Brown Bear とベナン生活であきらめたものとベナンからのまさかのお土産

 3月4日(水)、今日も primary school で授業をしてきた。明日木曜日はテストの日だそうで、今週は水曜日しか授業が無いのが寂しい。そもそも、英仏のバイリンガルを育てる学校なのに英語の授業が各学年1クラスだけというのも奇妙な話ではあるが、先生が足りないのだろう。
 ということで、今日は1クラスで教えてきた。題材は、またもや Eric Carle の絵本にした。タイトルは、Brown Bear, Brown Bear, What Do You See? だ。この絵本を使って授業をしたことは無かったが、チャンツがあるし話の内容も面白いことは知っていた。色と動物の名前を導入することが出来る。面白いのが、この動物と言ったらこの色、というような固定観念をぶち破り、有り得ない色と動物がマッチされているのだ。例えば、blue horse や purple cat のようにだ。Eric Carle の絵の面白いところは、ユニバーサルな絵柄でありながら、子どもたちが『えっ!!』と驚いたり、知的好奇心が高まる絵や色も入っているところだ。
 さて、今回の絵本はベナンの子どもたちには受け入れられるか。まずは、導入として基本的な色を英語で表してみた。黄色、ピンク、赤、黒、教室で見つけることが出来る物の色は問題なく英語で言うことが出来ていた。紫、肌色、銀色、金色などは、そもそも教室にその色の物が無さそうに見えたが、さすがアフリカ人。視力が良すぎて、窓の向こうに見える住居の洗濯物の中に紫や銀色を見つけていた。子どもたちが一斉にその洗濯物を指差したので、住人が驚いていた。
 動物もよく知っていた。ヤギだか羊だか、私にもよく区別がつかないものは置いておいて、ネコや鳥、カエルなど他の動物も英語で言うことが出来ていた。そして、面白いのはこの後だ。色と動物のマッチングだ。brown bear や yellow duck は良い、普通という意味で。さて、来た。blue horse と purple cat だ。子どもたちに絵を見せると、一斉に、
 
 "Ohhhhhhh!!"
 
と言っていた。子どもたちは、キャッキャと言って笑っていた。爆笑する子、信じられないという顔で驚いて見ている子、色んな反応が見えるのが良い。男の子は、それまでの動物の鳴き声の真似をしていたのに、blue horse や purple cat になると、急におどろおどろしい鳴き声になった。いや、馬はそんな風に鳴かんやろ、それは発情期のネコの鳴き声だな、と突っ込みたいのをこらえた。
 前回の The Very Hungry Caterpillar と同様、チャンツベナンの子どもにとって発音しづらいところがあったようだ。子どもたちは、またもや一瞬にしてアレンジを加えた。私は、英語のイントネーションとしておかしくならない限り、何ら問題無いと思っているから矯正はしない。むしろ聞いていて面白い。あっ、そう来たか、と驚かされる。英語を教えている身で他人事に聞こえてしまうかもしれないが、この子たちを教えていると、妙に客観的になる。大学進学とかテストの成績とか、日本ほどの重圧を感じないからだろうか。こう教えたらどうなるのかな、この題材にしてみたら子どもたちにウケるかな、という目線で英語を教えることが出来る。
 この日の最後の活動として、またグループごとに前に出てチャンツを披露してもらった。さすが子ども。色と動物の組み合わせどころか、出てくる順番までも覚えてしまっていた。私の方が、『えっと、次は何だっけ?』となっていた。手拍子をつけたり、ダンスも加えたり、最後はノリノリで歌いながら締めくくった。

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チャンツを歌っている子どもたち。
 家に帰って、昼ご飯を済ませると、航空券探しを始めた。色々と事情があって、今月末に私は日本に帰らなくてはならなくなった。コロナがいよいよ日本で本格的に猛威を振るい始め、世界中に余波が広まりつつある。アフリカに広まるのも時間の問題である。そうすると、医療体制が脆弱であるアフリカ諸国の取る政策としては、いち早く国境を閉ざすことである。民間人を完全に封じ込めるのだ。そうすると、外国人である私も当然出ることが出来なくなる。今やっている仕事を投げ出すことはしたくないが、親からの「帰ってこいコール」を無視することも出来ない。結局、他の事情も重なったので、3月末に帰ることにした。すでに学校側にも伝えてある。色々とゆるいベナンを憎らしく思うこともあるが、こういうときは有難い。家族を心配させてはいけない、と言って、私が日本に戻ることを快諾してくれた。
 日本では、トイレットペーパーやマスクが品薄になっているという。マスクが無いというのは確かに問題だ。だが、私は多分今ならトイレットペーパーが無いことは苦には思わない。何ならパンツも無くていいんじゃないかくらいに思っている。ベナンに来て良かったと思うことは、色々物が無い故に、手放すものが増えたことだ。トイレットペーパーは、外国人用に売ってはいるので家には置いてはいるものの、高級なお店でない限り、ほぼ確実に公共の場所には無い。それどころか、トイレ(屋根や仕切りがあって、便器もあるという意味で)はあっても、『えっと、これはどうやって用を足せばいいの?』と頭を悩ませる形をしている便器に遭遇することもあるし、汚すぎて用を足すことを諦めるほどのトイレもある。そんなベナンで、公共のトイレにトイレットペーパーを求める方がどうかしているのだ。最初はトイレットペーパーを持ち歩いていたが、いつからかそれも面倒臭くなった。確かに、この方がゴミも増えないし、エコなのかもしれない。
 あと、洗顔や洗髪という概念も変わった。これまでは、ビオレやらパンテーンやら、コマーシャルで宣伝しているような製品を使っていたが、当たり前だがベナンではそんなものは手に入らない。外国からの輸入品は売っているものの、コスパが悪すぎる。日本から持って行くにしてもいつかは使い果たすから、あきらめた。その代わり、洗顔にはベナン産のゴマージュを使うようにした。これがまたとんでもなくコスパが良い。毎日使っても数ヶ月持つ。お値段なんと、1450セファ(日本円で290円)。本当は毎日使うものではないのだが、少量にしてゴシゴシしないようにすればいいと勝手に思っている。肌に優しくて、おまけにベナンの水が合うのか、ベナンに来てからニキビが出来ない。肌がツヤツヤするし、これまでの日本の洗顔方法を手放して良かったと思っている。
 シャンプーも、日本製品を持ち込むのをやめた。かと言って、輸入品を使う気にはならないので、クラリスの友達が売っているというシャンプーを定期的に買っている。自然のものを使っていて、髪に優しいそうだ。こちらもコスパが良い。3本で10000セファ(日本円で2000円)だ。ベナンでは、そもそも女性の地毛がとても短く、シャンプーを使う人が珍しいそうだ。しかし、エクステやカツラにつけるトリートメントはよく使われるので、日本人のようにつけて流すタイプではなく、洗い流さないタイプのトリートメントならお店に置いている。これも、クラリスにおすすめされたものをずっと使っている。今のところ、肌にも髪にも何ら問題が無いどころか、むしろ日本にいたときより状態が良い。これまで信じて疑ってこなかった従来の方法を手放すことで、思わぬ良い結果を得ることが出来た。
 あとは、油取り紙の使用もやめた。汗っかきで顔の油も出やすい私は、常に油取り紙を持ち歩いていて、隙あらば油を取っていたが、ベナンにはそんなもの置いていないし、ゴミが増えるから思い切ってやめた。というか、汗で油も流れる。だから、必然的に化粧もやめた。日焼け止めだけ入念に塗って、チークもアイシャドウもどうせ落ちるからやめた。すると、朝起きてから出かけるまでの時間も短縮されたし、化粧品の消耗も無くなった。
 水を節約するために、洗濯の頻度も落とした。きれい好きの私は、1日着た服は必ず洗濯していたし、下着を2日連続でつけるなんて論外だと思っていた。ところが、断水で水が使えないときはもうどうしようもないし、よほど臭くなければ別にいっか、と思うようになった。水の節約にもなるし、自分としてはエコな生き方を見つけたと思っている。
 色々と手放したものが多いが、今思えば本当に必要なものではなかったのだと思う。手放したところで、痛くも痒くも無かった。ベナン生活で鍛えられたのか、トイレットペーパーが無くても生きていけるようになった。だから私は買い占めはしない。
 航空券を探していたのだが、途中から飽き始めた。これがまた、地道な作業なのだ。少しでも安い日に行けるようにと思って、出発の日や帰国の日をずらして検索をしていくと、どうしても面倒になってくる。結局、今日は決めることが出来なかった。その代わり、家族や友達に買うお土産を何にしようかと考え始めた。ふと思った。トイレットペーパーなら、ベナンで嫌という程手に入る。一般市民は買わないからだ。現実的に考えて、今もらって嬉しいのはトイレットペーパーなのではないだろうか。出発の日が近づいたら、大型のスーパーに行こう。きっとそこではマスクも手に入る。まさか、ベナンからのお土産がトイレットペーパーとマスクになろうとは、思いもしなかった。