アフリカ初の…?とクラリスのおもてなし

 2月23日(日)、この10日ほどの間では珍しくノンストップで寝ていた。乾季のベナンでは、暑くて寝苦しくて目が覚めるのだ。しかし、疲れが溜まっていたのか、爆睡していた。咳で目が覚めることもなかった。

 実は私、10日ほど前に風邪を引いていたのだ。乾季は部屋の中もとても乾燥する。そんな中、友達とある日、ノンストップで数時間電話で話し、爆笑をしていたものだから、喉がやられてしまった。私は喉がやられると大抵熱を出す。今回も例外なく、先週熱を出していたのだ。そこで、当然嫌な予感を覚えた。世界的に広まりつつあるコロナウイルスに感染したのではないか、と。自分は、アフリカ初の感染者なのだろうか、と。
 結論から言うと、ほぼ100%違うと思う。クラリスはもちろん、私と接触した人の中でも体調不良をうったえている人はいない。熱は1日で下がったし、咳も少し出るくらいであった。
 潜伏期間は長いと言うし、現にベナンに戻ってきてから10日ほどのことだったので、十分にあり得ると思っていた。クラリスにも思いっきり疑われていて、否定しつつも心のどこかで、「まさか」と思う気持ちはあった。
 不安になって色々調べてみたが、やはりそれでも違うと思う。しばらく喉の痛みは続いたが、すっかり回復している。コロナだと思って、友達にも『ヤバイ!!熱が出た!!』と1人で騒ぎまくったが、数時間後に解熱したことを知らせると、『あっそ。次は確定したら教えてくれればいいから。』と呆れられた。
 そして今日、クラリスに夜遊びをしようと言われた。夜遊びといっても、私もクラリスも知っている、とある日本人の方が同じく日本人の学生さんを連れてベナンにやって来ているというので、歓迎の意味を込めて彼らが泊まるホテルでクラリスの料理を振る舞いたいのだそうだ。念のため仕事以外では人に会うことを避けていたのだが、すっかり体調も良くなっているし、もう大丈夫だろうと思って行くことにした。
 クラリスお手製の料理は、「マァ」と「ウォー」である。「マァ」は、ほうれん草みたいなものと魚を炒めたものである。「ウォー」はトウモロコシの粉を練って作ったお餅みたいなものだ。個人的にあまり「ウォー」は好きではないのだが、クラリスが好きなので我が家の食卓にはよく出る。2人で作り、準備をして大きめの容器に入れたところで気が付いた。はて、これをどうやって運ぶのか。何だかデジャブだ。前にもこんなことがあった。大量にヨーグルトを作って、2つの大きめの容器に入れて、どうやって運ぶのかと聞いたら、お前に決まっているだろうと言われた。そうか、私は食事会に招かれたのではなく、荷物運びとしての役を担うらしい。クラリスがバイクを運転するので、また私は両膝に乗せて命の危険に晒されながらこの手料理を運ぶのだ。
 この前の一時帰国中に、クラリスとお揃いのムーミンのバッグをいただいた。そのムーミンのバッグを持って出かけることにした。まず、後部座席の人間は荷物を持って乗るのに一苦労する。それなのに『早く乗れ、ただし料理がひっくり返らないようにしろ。』とプレッシャーを浴びせてくる。約束の時間よりだいぶ遅れているが、それはクラリスが出かけていたからで私のせいではない。何とか無事に乗り終えると、ピャーッといきなりかっ飛ばし始めた。
 彼らが滞在するホテルには20分ほどで到着した。このホテルには、1階にゲストが談話出来るスペースがあり、テーブルと椅子もあるのでそこでご飯を食べることが出来る。到着して、挨拶をした。リーダーの方は一度お会いしたことがあるので、覚えていてくださっていた。クラリスを日本に連れて行くことにしたんですよー、と話すとすでに知っていた。クラリスがもう話していたらしい。この前、特に用もないのにそれだけ話に来たらしい。よほど嬉しかったんだね、と笑っていた。
 食事の準備をしているとき、クラリスが無邪気に『マキが風邪引いちゃって〜コロナかと思ったわ〜。』みたいなことを言った。やめろ。今の日本人には通じない冗談である。もちろん、ちゃんと日本語でフォローしておいた。学生さんたちも、日本出国のときとベナン入国のときにそれなりに警戒されたらしい。こりゃ本格的に世界規模になりつつあるな、と思った。夏に来た学生さんたちもだが、今ここにいる学生さんたちもまだ本当に若くて、青春し放題なのに、大金を勉強にあてて、ましてやこんな非効率的で断水やら停電やらも起こりまくるベナンに来るなんて、本当に日本も捨てたものじゃないな、と思う。「今の若者は、」と何かにつけて言われるけれど、今の若者の方が厳しい学歴社会も生き抜いて、文科省の訳の分からない政策にも振り回されて、強く生きている気がする。
 クラリスを日本に連れて行くんですよ、という話を食事のときにもしたら、クラリスは改めて、
 
     "I don't want to eat sushi,,,"
 
と消え入りそうな声で言った。クラリスは、刺身も寿司も食べられない。まず、ベナンの一般市民で魚を生で食べるという発想はない。間違いなく死ぬ。だから、それを好き好んで食べる日本人が異質に写っているらしい。ついでに、クラリスは初めて蕎麦を見たときにも、
 
     "I can never eat soba..."
 
と言っていた。クラリスに言わせると、蕎麦は "Black pasta" で、蕎麦つゆは "Black sauce" だ。クラリスから見ると、蕎麦は黒い禍々しいものに写っているようだ。

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食事の準備中。

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ムーミンのお揃いのバッグ。
 楽しい食事会を終えて、我々はホテルを出た。帰り道、クラリスが運転中に、
 
     "Maki, we have a very big problem now."
 
と言った。何だ、と聞くと、
 
     "Gas..."
 
と言った。どうやらガス欠を起こしたらしい。しかも、問題なのは、我々2人とも財布を持ってきていないのだ。ベナンでは、スリ対策として基本的にお金を使う予定がないときは財布を持ち歩かない。クラリスもガス欠を起こす可能性を忘れていたのか、お金を持ってきていない。ただし、ベナンではモバイルマネーというシステムがあり、スマホさえあればお金を引き出せる。そこら中にモバイルマネーを扱っているお店があり、探すのに困難はない。ということで、無事にお金を手に入れて、ガソリンスタンドに寄ると、何とそこでドソウさんに出くわした。ドソウさんとは、クラリスが学生時代にお世話になった英語の先生だ。ベナンの国立大学アボメ・カラビ大学に勤めている。私も何度か会ったことがある。久しぶりに会って、近々また会いましょうということになった。汗だくで家に帰って、どっちが先にシャワーを浴びるかでクラリスと競って、勝った私は一足先にサッパリとして、床についた。