いざフランスへ( Part 2)とフランス到着

 9月6日(日)、フランスへ向けて、いよいよ旅立った。エールフランスでは、サージカルマスク着用が義務付けられている。それを手に入れるべく前日まで駆けずり回っていたが、私が住んでいる周辺には無かった。友人に相談をすると、何と持っているとのことで、1パック譲り受けた。しかし、実際普通の不織布のマスクと見た目では変わらないし、何かチェックがあるわけでもなかった。

 機内は混んでいるほどではないが、意外と人はいた。ビジネスマンぽい人もいれば、家族連れもおり、明らかに訳ありっぽい人もいた。色々な飛行機がキャンセルになっていたようなので、フランスに向かう人が一同にこの便に集中したのだろうか。ガラガラだと思っていたが、1列を独占することは出来なかった。3列の窓側にはすでに人が座っていて、真ん中が空席で、通路側に私が座った。
 機内に入り、自分の席に座った瞬間に、
 
 『はて、スマホをどこへやったかな。』
 
と思い、探し始めた。機内に入るときには確実に手に持っていた。席に座るときに、ブランケットや枕、スマホやパスポートやらも一旦真ん中の席に置いて、自分が座ったときに戻したはずだ。それが、無い。こういうときは、まず落ち着こう。ゴソゴソと、自分の座席や隣の席、シートポケット、カバンの中を探し始めたが、見当たらない。何かを察した隣人が様子を伺っているので、
 
 『私のスマホ、見てないですよね〜あはははは。』
 
と聞いて改めてその人を見ると、外国人だったようだ。思いっきり、
 
     "What!?"
 
と聞かれたので、英語で尋ねてみると、一緒に探し始めてくれた。色や何か目立つ特徴があるかと聞かれたが、いたって普通のアンドロイドだ。ゴソゴソ、ゴソゴソ、2人で探し始めた。焦り始めた。スマホを失くすというのは、大問題だ。冷や汗をかき始めた頃に、隣人が、声を上げた。何事かと思ったら、私のスマホが私のシートと隣のシートの間に綺麗にすっぽりと挟まっていた。色も似ていたので、気づかなかったのだ。隣人は自分のことのように喜んでいた。のっけからスマホを失くすとは、この先が不安で仕方ない。
 その後、離陸まで待っていると、ふと近くの4列に誰も座っていないことに気づいた。すぐに客室乗務員さんを呼んで、移っていいかを聞いたところ、赤ちゃん連れがいたらそこに案内しなければならないとのことで、もう少し待ってくれとのことだった。しばらく待つと、どうやら赤ちゃん連れは別の席に案内出来たとのことだ。従って、私の4列独占が決まった。隣人にも、迷惑をかけたお詫びとして、3列を独占してしっかり休んでほしい。
 4列独占とは、何と心地良い。前に人もいないので、座席を倒される心配もない。しかも、離陸してから少し経つと、何と無料 Wi-Fi まで入るというではないか。快適過ぎる。機内食も美味しかった。感染予防のためか、昼食はフランスらしいオシャレな紙袋に入って提供された。
 Wi-Fi が入ると聞いて、機内で少し仕事をしていたのだが、途中から眠くなって見事にグースカと寝始めた。そして、機内食の匂いで起きて、食べて、また寝た。長時間のフライトだというのに、本当によく寝ていて、次に起きたときにはすでに着陸態勢に入っていた。足を悠々に伸ばして寝ることが出来たので、疲れもなかった。こんなに快適ならもっと乗っていても良かった。ベナンまでの飛行時間を考えると、フランスまでなんて何と近い。
 現地時間午後3時過ぎ、フランスに無事に到着した。飛行時間は12時間ほどであったか。思ったより早く着いた。従姉が迎えに来てくれるまで、空港の中で待つつもりだ。早く着いたから、急ぐ必要も無い。色々と寄り道をしながら出口を目指していると、いつの間にか周りに人がいなくなった。そして、Exit という標識を見失った。お得意の迷子となっていた。近くのお姉さんに尋ねると、こっちよ、と言われて、言われるがままに搭乗券を差し出した。搭乗券?私は乗り換えをしたいのではないのだが。違和感を持ちつつも、こっちよ、と言われたから言う通りにした。すると、私の搭乗券のバーコードが機械に通らなかった。すると、おかしいなあという顔をしたお兄さんが、手動で何かを操作して、ゲートを開けた。促されるままにそのゲートを通ると、Transfer という標識が見えた。明らかに自分は乗り換えをする場所に誘導されている。違う、私は明日ベナンに向かうのだ。またもやお姉さんを捕まえて、自分は違う場所に誘導されていることを説明した。乗り換えは明日であるから、出口に向かいたいということも。すると、何やら裏口みたいなところから出て、そこから出口に向かうよう教えられた。従姉よ、大丈夫だろうか、この国のセキュリティは。違和感を持ちつつも言わなかった私も悪いが、バーコードが機械を通さなかった時点で、搭乗券を目で見て確認しなかったのか。そして、手動で簡単にゲートを開けてしまうのか。さらに、裏口みたいなところを簡単に一般の客に通らせて良いのか。
 ここから出口までが長かった。出口の前に、パスポートコントロールを通過しなければならないが、そこの場所が分からず、それっぽいものがあったのだが、誰もいないし、標識がフランス語になっていて分からなかった。50メートル手前くらいでウロウロしていると、フランス人と思しきスタッフの男性が、手招きをしている。こっちで良かったのか。
 すると、彼が何かを言っている。マスク越しなので、よく聞こえなかったのだが、「マスク」と言っているように聞こえた。顔認証があるからマスクを取れ、ということか。近づいてみると、彼は非常に笑顔で手招きをしながら「マスク、マスク」と言っている。さらに近づくと、「よこそ」と言っている。よこそ、とは何だ。ついに、はっきりと聞き取れる距離になると、
 
 『まっすぐ進んで下さい。』
 
と日本語で言った。突然の日本語で驚いた。「マスク」ではなく、「まっすぐ」だったのだ。「よこそ」は、「ようこそ」であった。
 
 『日本人ですよね?』
 
と聞かれたので、
 
 『そうです。日本語お上手ですね。』
 
と言うと、
 
 『日本のどこに住んでいるのですか?東京?大阪?名古屋?福岡?北海道?(以下、東北から関東くらいまでの都道府県を早口でまくし立てた)』
 
何だ、この強烈なキャラの人は。日本人でもこれほど早口で北から都道府県を言える人は珍しいだろう。苦笑いをして、
 
 『東京です。』
 
と答えると、
 
 『東京のどこですか?港区?練馬区?杉並区?(以下、23区の残りを早口でまくし立てた)』
 
感心した。よくここまで早口で喋れるな、と。
 
 『日本に住んでたんですか?』
 
と聞くと、
 
 『ちょっと住んでた。日本語は自分で勉強した。日本語難しいね。日本語疲れた。』
 
と早口で言われた。確かに、これほど早口で喋っていたら、疲れるだろう。こちら側に向かってくる別の客が見えたので、私が去ろうとすると、私が着ていた青いパーカーと白い Tシャツと黒いズボンを指差しながら、
 
 『青巻紙、白巻紙、黒巻紙』
 
と言って、ガハハハと笑っていた。私の名前も「まき」ですよ、と言おうかと思ったが、何だか面倒臭いことになりそうだから、やめておいた。そしてこのノリ、何だかデジャビュだと思っていたら、ベナン人のノリに似ている。一瞬ここはベナンかと思った。
 パスポートコントロールを無事に通過すると、ようやく出口が見えた。私がこういうことをしている間に、従姉の方が先に着いていたようだ。無事に会うことが出来たが、従姉曰く、普通の出口から出たらこんなところでは会わないそうだ。だって、裏口から出ましたから。そしてそのまま、バスに乗ってパリ市内に出た。
 久しぶりに会った、と言いたいところだが、従姉は昨年旦那さんと一緒に一時帰国をしており、その際に会っているので、まあ一年ぶりであった。従姉とは、全てにおいて似ていない。まず体型が真逆である。従姉は背が高くてすらっとしている。一緒に歩いても血縁関係があるとは誰も思わないだろう。
 気がついたら乗り換えさせられそうになっていたことや、パスポートコントロールで出会った謎のフランス人らしきスタッフの話をすると、爆笑していた。
 バスで1時間ほどで、パリ市内に着いた。まず、私はどうしても行きたいところがあった。アップルストアである。実は、私のパソコンの充電器が、ベナンで暮らしていたときに大きなダメージを食らって買い換えなければならないのだ。私が椅子を引いたときに轢き殺して、瀕死にさせた挙句、虫か何かに食われたのか、ところどころえぐれているのだ。こっちで買う方が高いが、日本円が減るよりマシだ。よくここまで持ちこたえた。もう引退させてあげたい。またベナン生活で更にダメージを負うかもしれないし、そうなったらパソコンが使えなくなるので、買うことに決めた。
 アップルのマークが描かれている Tシャツを着た人が、何やら入り口を陣取っていた。検温でもしているのだろうか。従姉が流暢なフランス語で何かを尋ねると、あっさり通してくれた。一体この人たちは入り口を陣取って何をしていたのか。
 瀕死の充電器を店員に見せて、同じものを出してもらった。購入手続きをしていると、対応してくれた女性店員に、別の男性店員が話しかけた。さらに、従姉も交えて話し始めた。和気あいあいとしている。無事に購入が済み、店を出ようとしたときに、何を話していたかを尋ねると、あの女性店員を男性店員が口説いているようで、どうやったら付き合えるかな、と従姉に相談したようだ。このコロナ渦中、会話は控えめにという風潮がある中、初対面の店員と客でこういうやり取りが交わされるのか。ソーシャルディスタンスもへったくれもなかった。
 店を出て、メトロでホテルに向かった。方向音痴に加えて、フランス語がちっとも分からないので、本当に従姉について来てもらって良かったと思った。数年前までは、それでも海外一人旅をしていた自分が信じられない。このフランスのメトロの構造、複雑すぎて、自分がどこにいるのかが全く分からない。
 ホテルは、シンプルながらも綺麗なところであった。部屋も広く、シャワーやトイレも清潔感があり、居心地が良さそうだ。バルコニーまでついていた。目の前は警察署なので、何となく安心だ。

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ホテルのお部屋。

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バルコニー。黄色の建物が警察署。
 荷物を置いて、従姉の旦那さんと合流すべく再び街に繰り出した。ホテルの近くのカフェに入った。フランスでは、街を歩くときにはマスクが必須で、していないのを警察に見られると罰金の対象となるそうだ。カフェやレストランでも、食べているときは外していいのだが、トイレなどで店内を歩くときはマスクをしなければならないそうだ。
 美味しそうなジュースを頼んで飲んでいると、旦那さんがやって来た。旦那さんは、飲食店を経営している。仕事が忙しいだろうに、駆けつけてくれた。面白かったのは、ゴミ箱の話になったときだ。パリでは、ポイ捨て防止のため10メートル間隔でゴミ箱が設置されているそうだ。夫婦が日本に帰った際に、ゴミ箱が全然見当たらなくて困ったそうだ。しかし旦那さん曰く、それでもポイ捨てがあるそうだが。ベナンでは、道がゴミ箱となっている。ベナンでゴミ箱を設置するなら、1メートル間隔にしないとダメだろうな、と思った。あと、マスクをする文化がないフランスでは、マスクの貸し借りも平気で行われているそうで、それも、カバンの中で色々なものに紛れながら埋まっているしわくちゃのマスクを取り出して人に貸すのだそうだ。国は、マスクをしろという前に、マスクの使い方を説明しないといけないと思う。
 その後、お肉好きの私のために、このカフェを離れてステーキ屋さんに連れて行ってくれた。夫婦でもよく行っているそうだ。ステーキなんてしばらく食べることが出来ないので、じっくり堪能した。従姉が注文したブリュレまで平らげて、お店を後にした。2人の流暢過ぎるフランス語がかっこよかった。

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従姉と。

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注文したステーキ。マッシュポテトと野菜のトマト煮。

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真ん中が従姉、隣が旦那さん。

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通りがかったオペラ座

 ホテルに戻って、シャワーを浴び、床についた。ちゃっかりフランスを楽しんでしまっている自分であったが、明日にはもうベナンに向かうのだ。観光らしきものは全くしていないので、次の楽しみが出来た。広すぎるベッドで目一杯寝ることにしよう。