教材購入

 9月15日(火)、今日からいよいよプロジェクトを開始した。子どもたちへの教材を買いに行ったのだ。一応、入国してから1週間が経ったが、何も症状は出ていない。無症状であるにしても、クラリスにも何ら症状は出ていないし、クラリスの周りでも異変は無いそうだ。

 入国時の PCR 検査で陰性であれば、通常通りの生活をして良い。ただし、2週間後にもう一度受けなくてはならない。とはいえ、あまりフラフラと不用意に出歩くのも、以前より危なくなっている。というのも、ベナンでも失業者が溢れていて、外国人は特に狙われやすくなっているからだ。だから、今回の滞在では、なるべく単独で出歩くことはしないでおこうと思う。
 しかし、教材購入には、自分が必ず同行しなければならない。クラリスにお金だけ渡して、「買ってきて」と言うわけにはいかない。支援者からいただいたお金は、責任を持って自分が管理をするのだ。
 教材が販売されているのは、9月のこの時期だけだそうだ。新学期に向けて、ある一箇所で販売をするのだ。この一箇所を目掛けて、我々が住む南部の人間はもちろん、ベナン北部からも人が購入しに来るのだそうだ。10月から新学期がスタートをするので、今まさに人々が毎日のように押し寄せているのだという。小売業者や転売業者、親などが買いに来るのだそうだ。もうまもなく、このお店自体が閉まる。だからクラリスは、何としてでも私に9月の第1週目までに来てほしいと言っていたのだ。
 支援金を現地の通貨に変えるべく、日曜日と月曜日は ATM を駆けずり回った。こちらでも VISA カードは使うことが出来るので、理論的にはお金を下ろすことは出来るのだが、機械との相性が悪かったり、信じられない話だが ATM そのものにお金が十分に入っていないこともあるので、下ろすことが出来ないこともよくある。日曜日はそういう理由でことごとくお金を手に入れることが出来なくて、大いに焦った。
 しかし、日曜日と月曜日の2日間をかけて、ようやく教材を買うのに必要な額を下ろすことが出来た。大行列が出来るから、それに並ばなければならないことがネックであった。クラリスは、教材購入が終わり次第仕事に向かわなければならないということで、時間を節約すべく、店のオーナーと交渉をして、これまたどんな手を使ったか分からないが、列に並ばなくても良いようにした。毎度思うのだが、クラリスの交渉力は驚くべきものだ。恐喝か何かでもしているのだろうかとすら思う。

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いただいた手作りマスクで教材購入に向かった。
 バイクタクシーで40分ほどで、ベナンの最大の市場であるダントッパを通り過ぎた。教材を買う場所は、この近くにあるという。てっきりダントッパのことだと思っていたら、意外にもお店は道路沿いにある目立たない建物であった。ベナン中からここに集まると聞いていたので、もっと目立つ建物かと思っていた。
 確かに、すでに行列が出来ていた。クラリスとの事前の計画では、クラリスが店の中でオーナーと価格交渉をしている際は、私は別の場所にいることになっている。私がいない方が良いからだ。というのも、ベナン人は外国人を金持ちだと思っているので、外国人である私と一緒にいるところを見られると、私(=外国人)が金を出すと思うから、高い値段で売ってくるのだ。事前に、ある程度の金額は見積書としてもらっているのだが、そこからさらにクラリスは、大量購入だからもう少し安くならないかを交渉するそうだ。

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購入したお店。CBP (Comptoir Beninois de Papiers) というところ。
 店の人に、私たちが一緒にいるところを見られてはまずい。だから、店の近くでバイクタクシーを降りると、私だけ列の最後尾に並んだ。そして、クラリスだけが店の中に入っていった。無事に交渉が済んだら、私のところへ来て、お金を払うことになっている。
 交渉に時間がかかっているのだろうか。他にも同じように交渉している人がいるのだろうか。だいぶ待っていた。その間、クラリスは時折メッセージを送ってきては、誰かに何か言われても、絶対に話さないようにと何度も念を押していた。よほど心配になったのか、クラリスはある友達に私と一緒に待つよう頼んだそうで、途中からその友達がやって来た。もし誰かが私に話しかけて来ても、私を連れ去ろうとしても、その友達が追い払ってくれるということだ。んな大げさな、子どもじゃあるまいしと思ったが、ひとつ事件は起こったのだ。
 その友達と待っているときのことであった。とある若い男が近づいて、その友達に何かを話しかけた。すると、その若い男は、私を手招きしながら前の方へ誘導している。そして、クラリスの友達もそれについて行った。しかし、私はクラリスから何も言われていない。クラリスに直接言われるまで、そこを動くなと言われているし、どうにもこのひょっこりやって来た若い男が怪しく見えて仕方なかった。首を横に振って、動くことを拒否した。それでも手招きしていたが、私は動かなかった。クラリスに電話をして、事情を話すとすかさずクラリスは、自分は誰にもそんなことは言っていないと言った。クラリスは相当焦っていた。そして、さらに友達の方にも電話をしている。私の指示があるまで動くなと言っただろう、と叱りつけているのだろうか。心なしか、友達がしょぼんとしているように見えた。クラリスはまた私に電話をして、親のように、「よく動かなかった、偉いぞ」と褒めていた。結局、その若い男が何をしようとしていたかは分からない。クラリスの友達の方も、その若い男があまりにもナチュラルに私を誘い出したので、クラリスから何か指示があったのかと勘違いしたようだ。
 1時間以上待って、クラリスが最終見積書を持ってやって来た。列を出て、離れたところで金額を確認すると、確かにクラリスのおかげで以前の見積書より安くなっているようだ。さすが、クラリス。そして、本来であれば私が一緒に行ってお金の受け渡しをする予定であったが、クラリスにお金を持たせて、支払いをしてもらうことになった。お店の入り口付近が、さっきから不穏な雰囲気なのだ。大行列のため、客が文句を言い出したり、交渉で揉めているのか、怒鳴り声も聞こえた。また、ただでさえ混んでいるので、一緒に行くことは危険と、クラリスが判断した。
 クラリスが支払いに向かっている間に、雨が降り始めた。幸い、近くに屋根がある建物があったので、そこで待っていたが、ちょうど支払いも済んだとのことで、全てを持って帰るためにクラリスがタクシーを手配してくれた。そのタクシーも到着したので、その中で待つことが出来た。
 雨がおさまってきた頃に、クラリスがやって来た。そして、購入したものを全てタクシーに積み始めた。私はそのまま家に向かい、クラリスは仕事に向かった。さすがにこの教材を全て自分で家まで運び入れることは困難なので、クラリスが甥っ子に頼んで、搬入を手伝ってもらうことになった。
 家に着くと、甥っ子はすでに到着していた。そして、タクシーから全ての教材を家に運び入れた。無事に全て搬入し終えると、甥っ子は帰って行った。
 ふと見ると、トイレットペーパーがある。はて、これは教材なのか。クラリスに聞いてみると、何と、美術の時間で使うのだそうだ。
 ベナンの学校では、職業訓練のようなものも兼ねているのか、primary 1 と 2 でデコレーションの仕方なども学ぶそうだ。日本でいう、折り紙で花を作るようなものだろうか。とても興味深い。確かに、言われてみるとベナンのお宅ではよく玄関やリビングに、紙で作れられた花が置いてある。教材は他にも、ノートやペン、分度器などもある。
 予定していたよりも、多くの子どもたちが学校に通うことが出来そうだ。私はただ待っていただけではあったが、一仕事を終えて、疲れた。クラリスはもっと疲れたことだろう。
 実は、店の中に入れない私はクラリスに、内部の様子の写真を撮ってくるようお願いをした。ところが、中には警察官がいた。決してその警察官を撮っていたわけではなかったのに、クラリスがその警察官を撮っていると勘違いをされ、厳しく注意を受けたそうだ。そんなこともあった後に、クラリスは仕事に向かった。心身ともに疲れているだろう。アメを食べて、元気を取り戻してもらいたい。

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並んでいるときの様子。

 

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購入した教材(ペンやノート、トイレットペーパーなど)。

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購入した教材(分度器)。