ベナンでお籠り生活(3日目)と引っ越し完了

 9月10日(木)、お籠り生活3日目である。しかし、今日の夜にこのゲストハウスを出て、新居に向かう。

 1日目と2日目の朝ご飯は、フランスパンだけであったが、今日の朝ご飯には卵がついている。ベナン版のオムレツみたいなものだ。
 しかし、ベナン版のオムレツと日本のオムレツの決定的な違いは、ベナン版には玉ねぎとニンニクが入っていることだ。朝からニンニクとはパンチが効いている。私はオムレツといえば、ベーコンを入れるのだが、ベナンでベーコンは見かけない。そういう加工食品の類は無いのだ。
 卵かけご飯が食べたいなあと思うが、ベナンでは生卵を食べることは出来ない。日本のように衛生管理下に置かれた鶏の卵ではないからだ。ベナンで生卵を食べたら、確実にお腹を壊すか、死ぬかである。久しぶりにベナン版のオムレツを食べながら、自分は本当にベナンに来たのだなあと思った。
 しかしこうしてベナンに来てみると、つい数日前まで日本にいたことが信じられない。私は適応能力が高いというのか何というのか、ある場所で生活していると、それまで住んでいたころのことを忘れる。だから、ベナンでどれほど大変な目に遭っても、日本に帰ると他人事になれる。逆に日本で嫌なことがあっても、ベナンに来るとすっかり忘れるのだが。
 でも、私は他人事になれることも大事なことだと思っている。一番まずいのは、感情移入をすることだ。学校に行けない貧困の子どもたちを見てきたからって、泣いたり自分の精神のバランスを崩すことなどあってはならないし、のめり込み過ぎるのも良くない。日本にいるのに、いつもいつもベナンのことを考えるのは、多角的視点を失うことにもなるので、個人的にはこうやってよく忘れて他人事になれることは良いことだと思っている。
 午後6時過ぎくらいに、ゲストハウスに迎えが来た。しかしクラリスではなく、クラリスが寄越したタクシーだ。私一人で新居に向かうということらしい。20分ほど走ったところで、新居についた。ガードマンもついているということで、セキュリティの面では以前より信用出来る。
 クラリスクラリスの弟が待っていた。私を部屋に入れると、クラリスは前の家に戻り、全ての荷物を持って来るのだという。その間、私とクラリスの弟は新居で待っていた。1時間半ほどで、クラリスが戻って来た。甥っ子たちも連れている。手伝い要員だそうだ。ベナンでは、引越し業者というのはないそうで、車の手配も梱包も搬送も全て自分たちで行う。
 ベッドやテーブルは、全て解体しているので、持ち運びやすいが、再び組み立てなければならない。それをクラリスの弟と甥っ子たちがやってくれたのだ。その間、私は何もしなくていいと言われたので、ひたすら座っていた。
 夜10時半くらいに、とりあえず片付いた。やれやれ、と一息をついてシャワーを浴びた。そして、ふとクラリスへの日本からのお土産をまだ渡していないことに気がついた。バタバタとしていて、すっかり忘れていた。
 と言っても、私が買ってきたものはあまりない。ほとんどが、私の友人からのものだ。クラリスが、日本のアメが大好きだという話をすると、色んな人が買ってくれたのだ。その他にも、クラリスとお揃いの桜のストラップや、手作りのマスクまでいただいた。クラリスは、1つ1つにお礼を言っていた。
 私からのお土産でクラリスが一番喜んでいたのは、「ハッカ」だ。前回の帰国時に、とある方からハッカが虫除けとして使うことが出来たり、紅茶に入れて香りを楽しんだり、臭い消しに効くからと、いくつかいただいたのだ。私は、臭い消しとして使っていたのだが、ベナンでは虫除けとして使うことが出来ると思い、クラリスにも1つあげた。
 ところがクラリスは、そのハッカを頭痛薬として用いたようだ。クラリスは、頭痛持ちで、時折苦しんでいるのだが、いつもはベナンの伝統的な薬を飲んでいる。しかし、彼女はこのハッカを頭痛薬として試してみたところ、見事に効いたそうだ。日本にいるときに、クラリスから、
 
     "Don't forget to bring it."
 
と念を押され続けていた。それを2つ、クラリスに渡したところ、激しく喜んでいた。今や、このハッカはクラリスにとっての "Second God" だそうだ。他にも、"Magical white tape" を買ってきてくれと言われていたが、忘れていた。これは、修正テープのことだ。クラリスの前で初めて使ったとき、目をまん丸にして驚いていた。高価なブランドの品ではなく、アメや修正テープ、ハッカを欲しがるところがクラリスらしい。ちなみに、引っ越しを手伝ってくれたクラリスの弟と甥っ子たちのためにも1パックあげたのだが、一瞬にして無くなった。小包装になっているので、2つずつくらいあげたら良いかな、と思っていたが、あまりにも喜んでいたので、全てあげることにした。貪るようになめていた。ベナン人は、パッケージを大抵歯で開ける。手を使って開けているところはあまり見ない。だから、小包装のアメは、歯で開けると同時にそのままアメを口に放り込むのだ。包みまで一緒に食べているんじゃないかという速さだ。
 クラリスも、引っ越しで相当疲れているはずなのに、こんな体力が余っていたのかというくらい喜びを体で表していた。こんなに喜ぶならば、もっと買ってきてあげれば良かった。かわいい奴め。
 今日は、全てクラリスが指揮をとって何から何までやってくれた。新居探しも全てクラリスがやってくれた。人の家の写真を取って載せることに気が向かないので、新居の写真は載せないが、とても居心地が良い。家賃はそれほど変わらないようだが、プロジェクトのために買ったものを保管する場所も十分にある。クラリスにとって良いところを探せば良いのに、私の意見も聞いてくれた。感謝してもしきれない。アメで少しでもクラリスの疲れが取れればと願う。

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クラリスに渡したお土産。