初めてのナンパ(?)とグロス

 8月22日、目覚めると、WhatsAppでメッセージが来ていた。実は昨日、とあるベナン人男性 Dine(ダイン)と連絡先を交換したのだ。私を知る人は、『えっ、まきが?!』と思うだろう。確かにそうだ。私は絶対に見知らぬ人、しかも男性と連絡先を交換することはない。しかし、ここはベナンだ。日本語や日本に興味があって親しくなりたいと思ってくれている人もいるので、迷わず交換することにしている。

 経緯を順を追って説明すると、ここ数日、パソコンにとあるソフトを入れる必要が出来て、インストールを何度試してもWi-Fiが弱くて途中で途切れてしまっていたのだ。ある知人に相談すると、彼のオフィスならしっかり電波が入るということなので、お邪魔してインストールをさせてもらうことにした。ちなみに本来1日で済むはずだったのだが、この際他にも色々とインストールをしようと思い、2日間お邪魔することになった。彼の会社のスタッフの 1人がベナン人の若者に向けてドローンの研修を行うというので、インストール中、私も聞くことにした。フランス語なのでさっぱり分からなかったが、大人しくちょこんと座っていた。
 冒頭の連絡先を交換したダインというのは、この研修に来ていた若者だ。全部で3人だが皆学生のようだ。ダインは20歳だという。
 1日目に、何と彼から日本語で話しかけて来た。と言っても簡単な挨拶ではあるが。彼はあまり英語は通じないが、グーグル翻訳機能を使って、
 
  『また明日もいるのか』
 
と日本語で聞いたので、
 
  『いるよ』
 
と答えた。
 2日目(8月21日)、私がまたインストールをしているときも研修は行われていた。この日は途中から外でドローンのデモンストレーションをするとのことなので、若者たちも外に向かう準備を始めた。と、そこでダインがグーグル翻訳機能を使って、日本語で自己紹介をしてくれた。また、ジェスチャーでWhatsAppを持っているかと聞いたので、ここで連絡先を交換したのだ。
 そして今日、朝からダインから連絡が来た。彼はグーグル翻訳機能を使って日本語で送ってくれている。ご存知の通り、この機能を使うとやや不自然な言い方になったり、ネイティブから見ると面白い表現に訳されるので、彼の本心ではないし、言うまでもなく彼の日本語能力をからかっているわけではないということを留意してこの先を読んでいただきたい。
 まず彼は、早速私に結婚しているかどうかを聞いてきた。当然、していないと答えた。次に、年齢を聞いてきた。ベナンでは既婚か否か、年齢、子どもの有無を聞くことは失礼には当たらない。年齢についてはここでサバを読んだところで意味が無いので、正直に答えた。すると
 
 『あなたはとても古いです。』
 
と言われた。これは面白い。funnyではなくinterestingの方だ。私は、グーグル翻訳機能が一体フランス語でどのように訳したのかにとても興味を持った。日本語ならばたくさん婉曲表現がある。フランス語は私の年齢が31歳であることに対する反応をどう捉えたのだろうか。とても興味深かった。何て失礼な、と思った方もいるかもしれないが、私はただ単に興味深い言葉としか捉えていない。
 次にダインは子どもの有無を聞いてきた。ベナンではシングルマザーも少なくない。これにも、いないよ、と答えた。これに対し、彼は
 
 "🙏"
 
の絵文字を送ってきた。詫びているのだろうか。それとも祈っているのだろうか。とりあえず、
 
  『気にしないでね。日本では30代でも独身であることは珍しくないのよ。』
 
と送った。確かにベナンでは大抵女性は20代で結婚しているし、子どもも多い。30代で独身で子どもどころか彼氏もいない私は何とも不思議な存在なのだろう。ダインとはその後、お互いのことを話した。彼はドローン操縦士になりたいと言う。彼の夢が叶って欲しいものだ。
 その一方、クラリスはというと、珍しく家で人を待っていた。彼女は今日、ベナンに来ている日本人の学生さんの観光に付き添うのだ。これも彼女の立派な仕事だ。ご一行が車でクラリス家まで来てくれるというので、待っていた。私がダインとニヤニヤしながらメッセージのやりとりをしているのを面白くなさそうにじーっと見ている。彼女は時に心配性で、私が他の人、特に男性と連絡先を交換したと聞いて、
 
   "You should let me know before."
 
と言った。え、『この人と連絡先交換していいですか?』クラリスに許可を求めろと言うのか。まあ、クラリスは私1人では絶対にバイクタクシーには乗せないし、私が留守番中も戸締りをしているかを何度も確認するので、見知らぬ男性と連絡先を交換したことがとても心配なのだろう。
 ところで、クラリスが人を待っているという状況はとても珍しい。すかさず言った。
 
    "It's very unusual that you are waiting for someone to come."
 
と言ったら、
 
    "I don't like waiting. It's a waste of time."
 
と言ったので、いやいや、何をおっしゃる、と思って、
 
    "I am always waiting for you."
 
と、"always" を強調して言うと爆笑した。爆笑しつつ、彼女は
 
    "Hey, please don't write about that on your Blog!"
 
と言った。彼女はよくこう言うくせに夜寝る前に必ずと言っていいほど、
 
    "Hey, Maki, are you writing about me?"
 
と確認してくる。書いてるよ、と言うと、でかしたぞ、といった感じで満足気に笑う。
 待っている間、クラリスは私に、私も日本人の学生さんたちに挨拶をしたらどうかと言った。ああ、確かに、それがいい。では、着替えて少し化粧もしようとすると、激しく反論した。
 
    "NOOOOO!! You don't have to do that. This is so good."
 
と言って、私が着替えることも化粧をすることも許してくれなかった。ちなみに彼女は、化粧なんかしなくていい、と言った割に、なぜか彼女のグロスをつけさせた。髪もボサボサでルームウェアでグロスだけが妙に目立つ、極めて不自然な出で立ちで出迎えることになった。
 
 "When they see me, they will think this is so strange!!""
 
と訴えると、クラリスは、
 
    "OK, OK. I'll ask them "Do you think she is beautiful?" in the car. I'll tell you their answers later."
 
と言われた。確かに、私がいない状態で彼らが私の出で立ちをどう思ったかには興味があったので、承諾した。
 そして、彼らの車が到着した。クラリスはまた靴選びに時間がかかっていたので、私が先に挨拶をした。そしてクラリスがやって来た。彼女は開口一番、
 
    "Is she beautiful?"
 
と聞いた。おい、車に乗り込んでから、と言っただろう。どうして彼女は打ち合わせにないことをするのか。しかも突っ込むと、
 
    "Oh, I forgooooooot!!"
 
と言って爆笑している。どうして彼女はこんな短時間で自分が言ったことを忘れるのだろうおかげさまで学生さんたちはキョトンとした顔で我々を見ていた。
 

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この格好で出迎えた。写真右下、クラリスの指が入っている。
 
 
 
 その後、クラリスがいなくなってじーっと見られることも無くなったので、再びダインとのメッセージを再開した。ダインは日本に行ってみたいと言ってくれた。
 いつかのBlogにも記したが、日本に憧れる青年がここにもまたいた。あのとき自分に誓ったように、日本のことを正しく知ってもらうために、こう言った。
 
 『日本も問題をいっぱい抱えているよ。そんなに良い国じゃないかもよ。』
 
 すると彼は、
 
 『問題はどこにでもあります。それが世界を良くするものです。』
 
なるほど。ダインが言いたいのはきっと、問題があるからこそ、世界はより良くなっていく、ということだろう。素敵なことを言う青年だ。彼が日本に来たとき、どうか日本は彼を暖かく迎えてくれる国であって欲しい。
 ちなみにこの後、デートに誘われたのだが、クラリスに言うと絶対に許さないし、現に彼女は仕事中に私に
 
    "Please block him soon."
 
と言ってくるくらい心配しているので、デートはやんわりとお断りをしておいた。続編があるかどうかは分からないが、今日のところはこれまで。