モテ期と体温と私の同居人

 8月19日、いつも通りの1日ではあったが、ここ最近、嬉しいことが続いている。実は、小学校以来のモテ期が到来しているのだ。1人2人ではなく、10名ほどから熱烈なアプローチを受けている。

 彼らは近所に住んでいる。したがって毎日のように顔を合わせるのだが、会うたびに私とハグをしたがる。私が帰ってくると家から出て来てハグをせがむのだ。不公平が無いようにしっかり全員とハグをしている。言葉は通じないが、彼らがとても私を好いてくれているのはよく分かる。
 私が家にいるときは扉を叩いて外に引っ張り出す。デートをする場所はアパートの目の前だ。何とも健全だ。ご飯を食べているときなど、私が外に出られないときは、窓から手を振る。しかも1度2度ではなく、延々とだ。代わる代わるやって来ては手を振る。窓には網戸があるので、網戸越しに手を合わせると彼らはとても喜ぶ。まるでセカチューの名シーン『キスでもしませんか?』のようだ。
 

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この窓の網戸越しに『手でも合わせませんか?』が始まる。
 
 
 彼らは最初の方は警戒心があり、私を見ても遠巻きに見ているだけであったが、翌日に警戒心が溶け、以来ずーっと私を好いてくれている。ハグまでせがむのだから、よほど私が好きなのだろう。いやー、しかしモテるなあ。これを書いているまさに今、彼らはひっきりなしに私に窓から手を振っている。飽きることなく、代わる代わるぞろぞろとやって来る。
 すると、私がひたすら "Hello." と言っているからか、夕ご飯を作ってくれていたクラリスが、彼らを中に入れた。基本的にクラリスはご飯前やご飯中はあまり人を中には入れない。しかし彼らは特別だ。彼らは私に会えてとても嬉しそうであった。私が以前あげた紙飛行機もペットボトルけん玉もまだ持っている。それでは彼らのうちの2人を紹介しよう。

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この日、2人は私のためにダンスを披露してくれた。
 
 
 2人しか写真が撮れなかったのは、何しろ子どもゆえに動き回るし、次から次に抱っこと握手をするから両手が塞がるのだ。つまり、彼らの写真を撮るのは至難の技だ。厳密に言うと、この写真も以前撮ったものだ。
 今日は、少し面白いことがあった。いつもは他にもゾロゾロと私の握手会を待っている子どもがいるので短めに握手をするのだが、今日は比較的少なめだったので、いつもより長めに握手をしていたときのことだ。握手をした男の子が、私の手に違和感を持ったようだ。横にいた男の子に何か言うと、その子もまた私と握手をして何か異変を感じたようだ。その後、2人は握手をすると、大げさに『あっちー!!』と言わんばかりのリアクションをした。それが楽しかったのか、2人は私の手を飽きることなく触って何かを不思議がっていた。ここで分かった。おそらく、体温が違うのだろう。子どもの方が体温が高いというが、彼らとじっくり握手をすると、明らかに彼らの方が体温が低いようだ。確かに、クラリスは基本的に扇風機が無くても平気そうだ。それに対し、私は食事中は特に汗をかくため扇風機無しでは汗だくだ。ちょっと涼しいだけで彼らはダウンコートやら毛糸の帽子を身につける。体温が違うということに子どもが気づくとは、なかなか興味深かった。
 その後、食事をするために子どもたちには帰ってもらった。クラリスと食事をしているときに、子どもたちが私との体温の違いに気づいたことや、アフリカ人と日本人では体温が違うんだね、というような話をした。ふと思った。そう言えばクラリスもアフリカ人なんだよな、と。ここ最近、クラリスがアフリカ人であることを忘れていたような気がする。アフリカ人と住んでいる、ではなく、ただの女の子の友達と住んでいる、というような感覚になっていた。しかも、クラリスのキャラも手伝って、何の遠慮もなく、言いたいことはしっかりと言い合い、裸も見せ合い、ボケに突っ込み合い、笑うポイントもまあまあ同じで、日本人の女の子との友達と何ら変わらないではないか。お互いに言いたいことが伝わらなくて聞き直すことは多々あるが、きちんと言い直して分かり合っている。喋らない時間ですら、私には何ら気まずくない。本当にここ最近、外国人ゆえの言葉の壁や心の壁を意識していなかった気がする。イラつくことはあるし、彼女も感じているだろう。しかし、気づけばわだかまりも溶けている。
 しかも彼女には不思議な能力がある。爆音で音楽をかけたり、歌ったり、寝てるかどうかを確認してくるなど、日本人の友達にはされたことがない。きっとされたら私はイラつくことは無くとも、うろたえるだろう。しかし、クラリスは見事に笑いに変えてくれる。もはや彼女がそうすることは日常茶飯事にもなりつつあるので、してくれないと調子が狂うほどだ。なかなか良い同居人ではないか、と思ってクラリスを見ると、無表情でボリボリと魚の骨を食べていた。