笑いのツボとベナン人のファッションとnormallyと爪切り
8月25日、
すると、 私たちがそろそろ出ようというまさにそのときに雨が上がった。 そう、私は凄まじく晴れ女なのだ。
"Did you understand?"
と聞いてきたので、分かるわけないだろう、と言った。 彼女が訳してくれた。
"Sometimes parents don't need school because it educates their children better than them."
と、神父が言っていたそうだ。 クラリスはヒーヒー言って笑っている。 私にはそんなに笑えることではなかったが、 要は笑いのツボが違うということだろう。 とりあえず苦笑いだけしておいた。 そう言えば先週の神父のお話は、 結婚前に性交渉を持ってはならないというものだった。 ここでも爆笑が起こっていた。 つまり誰も守っていないということなのか。 いずれにしても面白さがよく分からない。 子どもが大勢いる教会でこのような話が出来るのもまた異文化であ る。
ところで、礼拝中は神父が言っていることが分からないため、 正直に言うと私は暇である。では、何をしているかというと、 ベナン人のファッションチェックである。ベナン人に限らず、 アフリカ人はオシャレだ。カラフルで、独特な模様、 我々から見ると奇抜とも言えるデザインの洋服を着こなしている。 イメージが湧かないという人は、グーグル画像検索で「アフリカ 服」などで調べてみると分かると思う。 赤ちゃんからお年寄りまで、皆アフリカンな服を着ている。 もちろん、毎日アフリカンな服ではなく、 時にTシャツとジーンズや普通のシャツなども着る。しかし、 教会はオシャレをしていくところなのか、 大抵皆アフリカンな服だ。礼拝中、 不自然でない程度に周りを見ながら、『あ、あの服いいな。』『 私だったらそこは青にするかな。』 などと色んな人のファッションチェックをしている。 神様の前で不謹慎ではあるが、 居眠りするよりかは生産的であると思う。
日本にいるときは全く思いもしなかったことなのだが、 男性のアフリカンセットアップ姿はとてつもなくカッコいいのだ。 スーツなんぞよりもドキドキするのである。 日本で着ていたら確かに浮くが、 今の私はアフリカンフェチとでも言うのだろうか、 浮いてもいいからとにかく男性にはアフリカンセットアップを着て もらいたいと思っている。 男の子もセットアップでバシッとキメている。 今日は前に男の子が3人いたが、見事に着こなしており、 色もデザインも斬新だ。
女の子や女性の服もまた可愛いのだ。子どもといえど、 デザインは相当凝っているものが多く、参考にさせてもらう。 さらに女の子や女性は頭にターバンを巻いたり、 ヘアアレンジをしたり、髪の毛にも抜かりがない。また、 女の子は乳幼児期にピアスの穴を開けるそうだ。というのも、 日本でもそうだが、 時に子どもは男の子と女の子の見分けがつかない。しかも、 アフリカ人は男女共に髪の毛の長さが一定の長さまでしか伸びない 。女性でも坊主に近い人がいる。したがって、 特にアフリカでは男の子と女の子の見分けがつかないことが多いの で、耳にピアスがあるかどうかで性別が判断出来るそうだ。髪の長さにはもちろん個人差はある。クラリスの地毛は長い方だ。髪の毛を束ねていたり、一見長そうに見える女性はほぼカツラかつけ毛だそうだ。
ベナンのファッションには素晴らしいところがまだある。それは、 自分自身が着たいものを着ているということだ。 日本ではファッションに何かと制限がある。 これを着たいが年齢的にやめておこう、とか、 これを着ると浮くからやめておこう、など、 年齢や性別で着たいものが着られないということがある。しかし、 ベナンでは男性もピンクの服を着るし、 お年寄りもド派手な服を着ている。また、男の子は青、 女の子はピンク、といったステレオタイプも無いそうだ。 これは実に素晴らしい。 家族全員がお揃いの洋服を着ていることも多い。親子のみならず、 夫婦でお揃いのお洋服を着るというのはなかなか日本では見ない。 しかし、見ていると実に素敵で羨ましい。 私も家族が出来たら子どもや旦那さんとお揃いのお洋服を作ろう。 そして東京の街を練り歩くのだ。
ちなみに私が持っているアフリカンドレスは、 こっちで作ってもらったものもあるが、 知人の帰国の際に布を持って帰ってもらい、 日本人の職人さんや友達に作成を依頼したものもある。 布を見せるや否や、 独特な生地で日本では全くと言っていいほど見ないが、 とてもしっかりとした布で素敵な模様だと褒めてくれた。 なるべくベナン産の布を日本人に知ってもらいたいと思っているの で、次の一時帰国のときにも布を持って帰って作成を依頼しよう。
ということを礼拝中に考えていると、気がつけば終わっていた。 昼過ぎから、久しぶりにフランス語の勉強を始めた。 恐ろしいほどに頭に入らない。 3秒前に学習したことを見事に忘れる。これまで生徒たちに『 どうして昨日習ったことを1日で忘れるのだろう。』 と疑問を抱いてきたが、1日どころではない、 私は3秒で忘れることが分かった。しかし、 外国語学習自体は実に興味深い。
ふと、かねてより気になっていたことを思い出した。 ここベナンで人と英語を話すとき、高確率で "normally" という単語を耳にする。クラリスは1日何回 "normally" と言っているだろうと思うほどだ。ベナンはフランス語圏なので、 おそらくこれはフランス語の影響なのでは、と思い、 フランス在住歴10年以上でもちろん現在はフランス語に何ら支障 がない従姉に聞いてみた。すると、見事に予想通りであった。" normally" はフランス語では "normalement" だそうで、従姉曰く、『 言葉の調子を整えたりもする、大して意味もない感じでつけたりする』 そうだ。フランス語では使われる頻度が高いそうだ。 意味は、『普通に考えて』のようなものらしい。 ここで従姉が恐ろしく分かりやすい例を出してくれた。 いつぞやの『なんちゃってダメージジーンズといつも通り』 の記事で、クラリスと教会に向かっているときに、 彼女のサンダルの留め具が外れて私が別の靴に履き替えるよう提案 したときのことだ。クラリスは、
"Normally, yes."
と言った。これがフランス語では "Normalement oui." になるそうだ。『普通に考えてそうなるよね。』とか『 そうするのが自然ね。』といった意味になるらしい。 実際の例を使って説明されたことで妙に納得した。 やはりフランス語の影響であったと腑に落ちた。
ちなみに従姉は、逆のパターンも提示してきた。つまり、 英語からフランス語への影響だ。従姉曰く、 フランス在住の英語話者が、"actuellement" という言葉をよく使うそうだ。スペルが似ていることから、 このフランス在住の英語話者は英語の "actually" と混同しているようだ。" actually" は、相手が知らないことや予期せぬことを知らせるときに『 実はね』といったニュアンスで使うことが多い。『実はね』 というくらいなので、"actually" は文頭に置かれるし、やや強勢も置かれる。ところがフランス語の "actuellement” は、『今は 、現在は』という意味らしい。従姉からしてみると、 やたらこの人は『今』を強調しているなあと思っていたらしい。 しかも『今』という状況でなくても使うので、 少し不自然に感じていたそうだ。
"normally" と "normalement" は、意味は大体同じだが、フランス語の"normalement" ほど英語の "normally" の頻度は高くない。つまり、使う 頻度が英語に影響しているという事例だ。一方、" actually" と"actuellement” は、スペルは似ているが、意味が全く異なる。つまり、 スペルが似ていることが、 フランス語に影響しているという事例だ。なかなか興味深い。
夜になって、ベッドでゴロゴロしていると、 クラリスがやって来て、ドアの前で座って何かを考えていた。
"Why are you sitting here?"
"OK! I understand now."
と、ドヤ顔でやり始めたが、早速向きが違うし、 座って前屈の姿勢でやっているので、 ベッドに座って立て膝でやった方がいいのでは、と言うと、
"You are not kind. You know I cannot do that."
と言われた。要は、お腹が邪魔をして立て膝が出来ないのだ。 それにしても、前屈の姿勢もなかなかキツそうだ。 ギリギリ足に手が届く、といった感じなので、 爪を切っているのかストレッチをしているのかが分からない。 指を切るのではないかとハラハラして、
"I'm afraid."
と言うと、
"Me, too."
と言われた。見守っていると、
"Maki, I'm OK. I'm professional now."
と言ったので、安心してベッドに戻った。 クラリスは自ら鼓舞するかのように、
"Clarisse is professional. My job is to clip nails."
とぶつくさ言っている。
"What's your job?"
と聞くと、
"To clip nails."
と答えた。爪切り屋さんに転職したらしい。その後、神経をすり減らしたのか、
"I'm too tired!!"
と言ってベッドにダイブした拍子に頭を壁に激突したので、
"Are you OK?"
と聞いたら、もう寝ていた。 おかげさまでこちらはすっかり目が覚めた。