インタビューとキャンパスデートと問題の問題

 9月23日、クラリスは今日、とあるインタビューを受けることになっている。日本から、ベナンベナン人のことを記事にするためにベナンにいらしている方がおり、たくさんのベナン人がインタビューをされていたが、クラリスもその1人に選ばれたのだ。私も、アシスタント時々通訳(結論から言うとやはり通訳は出来なかったが)のため、同席をすることになった。なお、あらかじめ断りを入れておくと、インタビューの内容の詳細はここには載せない。私がインタビューをしたわけではないし、インタビュアーへの敬意として、何かしらの媒体でインタビュアー自身が内容を掲載するのを先としたい。そして許可を頂ければ、このBlogにもそのリンク先などを載せることにする。

 ところで昨日夜、クラリスは珍しくあまり寝付けていないようだった。何度かリビングに行ったりして、寝室を離れていた。ウロウロしては、寝室に戻り、またウロウロをする、を何回か繰り返していた。翌日のインタビューのことを考えて緊張しているのだろうか。戻ってきたときに、
 
    "What's wrong?"
 
と聞くと、
 
    "I'm just hungry. I ate the rest of the bananas! "
 
と言った。あのバナナは私の栄養補給のために買ってくれたものであったはずだが。しかし、それでもやはり、何かしら心配事や不安があるのではないか、と思い、彼女に聞いてみた。
 
    "Are you worried?"
 
もちろん、『インタビューのことを心配しているのか。』という意味で聞いた。すると彼女は、
 
    "Ah...yes."
 
と答えた。さすがの彼女も、緊張や不安を感じるのか。少し意外ではあったが、テレビに出るわけではないし、リラックスしてのぞめば良い。励ますつもりで、彼女にこう言った。
 
    "Don't worry. If you get nervous during the interview, I'll support you."
 
病気になったとき、私を優しく看病してくれたクラリスへの精一杯のお礼のつもりで言った。少しウルっとくる場面、になるはずだった。しかし、クラリスは、
 
    "What are you talking about? I'm not worried about the interview."
 
と言った。
 
    "So, what are you worried about?"
 
と聞くと、
 
    "About eating bananas at midnight."
 
と答えた。心配は全く不要であった。
 さて、インタビュアーとの待ち合わせ場所に着いた。そして何とウィルも来ていた。ウィルもすでに何日か前にインタビューを受けていたのだ。今日は私と同じくクラリスのインタビューに同席するつもりで来たのだという。クラリスがやっている子どもたちへの教育支援については、ウィルも共同で関わっているためだ。
 早速始まった。インタビュアーのご厚意で、日本からのお土産としてお菓子を頂いた。クラリスとウィルは完全にそっちに気を取られているが、和やかに和気あいあいとした雰囲気であった。
 途中、私も少し話す機会を頂いた。名前を紙に書くよう言われたのだが、久しぶりに漢字で自分の名前を書くととてつもなく違和感を感じた。何だか字が下手くそになっている気がする。そして、私はベナンに来ることになったきっかけなどを話した。毎度人に話すたびに思うのだが、我ながらなかなか無計画で来ているなと思う。まあ、だからこそやりたいこと全てに手を出せるのだが。客観的に自分のことを話すとエキセントリックだなあと思うのが不思議である。
 クラリスとウィルは、笑いもしっかりと取るが、やっていることや考えていることはとても立派なことで、やはり尊敬出来ると改めて思った。普段なかなかこのような深い話をする機会が無いため、改めて2人のことを知る機会にもなり、とても楽しいインタビューであった。
 

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インタビューを終えた後、クラリスとウィルと。
 

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お菓子のみならず、ちゃっかり私はラーメンまでいただいた。クラリスは、このパッケージの紅生姜を刺身と勘違いし、ラーメンに刺身を入れるのか、と恐ろしがっていた。
 その後、クラリスは仕事に向かわなければならなくなったため、私はウィルに家まで送ってもらうことになった。その途中、ベナンの国立大学であるアボメ・カラビ大学に寄り、少し散歩をしようということになった。私が学生のときに全く縁がなかった、いわゆるキャンパスデートというやつである。久しぶりに天気も良く、キャンパス内ではあちらこちらで学生さんたちが歌ったり、ダンスをしたり、おしゃべりをしたりしていた。敷地内はとても広く、建物の数も多い。とあるダンスサークルの見学も少しさせてもらった。結構激しいダンスであった。コンテストに出たり、歌手の後ろで踊ったりもしているという。加わって良い、という意味で手招きをしてもらったが、『今日はスカートだから。』と頑なに断った。危うくまた公開処刑をされるところであった。
 実は、ウィルもこの大学に通っていた。しかし、大学側の不手際で未だに卒業証書をもらえていないのだという。非常に信じられない不手際ではあるが、その代わり、ウィルはクラリスと同じ大学(つまり私の職場ともなる予定のところ)に通うことにして、その結果、英語という武器を手に入れた。アボメ・カラビ大学も、以前に比べたら英語を学びたい学生も増えたというが、やはりまだまだベナンの学生の中で、英語を学びたいと思う人は少数だそうだ。フランス語が出来れば事足りると考えるのも無理はない。ベナンはかつてフランスの支配下にあった。そしてその影響は未だにある。例えば、通貨がセーファーフランであることや、ベナン公用語がフランス語であること、そしてフランスの教育システムを押し付けられていること、などである。
 ふと、以前から気になっていたことをウィルに聞いてみた。
 
    "Do you feel you are still colonized by France?"
 
すると、ウィルはこう答えた。
 
    "Yes, I really feel that. We cannot survive without France. But the biggest problem is that few people think it is a problem!"
 
そうなのだ。ある問題における最大の問題とは、それを問題として認識している人間が少ないか、もしくはいないということなのだ。フランス語が出来れば事足りると考えている人の中には、きっとフランスの庇護の元にいれば安泰であると考えている人もいると思う。だから特段、フランスの支配下にあることを問題点として捉えていないのだ。英語を身につけなくても、フランス語だけで生きていけるならそれでいいじゃないかと考えているだろう。そして、私が考えている以上に、彼らは強烈に劣等感を抱いている。ベナンのスーパーや企業は大抵フランス資本が入っている。フランスがいなければ生きていけないということを嫌というほど認識しているのだ。白人が自分たちの上に立っているということを日々思い知らされているのだ。少し話は逸れるが、彼ら黒人から見ると、アジア人は白人なのだそうだ。つまり、私も white として認識されている。いくら私が、アジア人は白人ではないと説明しても、彼らには、black か white という概念しかないのだ。私を見ると、白い肌を羨ましがるベナン人女性には何回も出会ってきた。植民地時代にフランスが落とし続けた影は未だに残っている、というか、今なお落とし続けている。
 ウィルは、このアボメ・カラビ大学の学生さんの中で、ベナンという国を築きたいと考えている人は何人いるだろうか、と嘆いていた。ウィルはとても大きな野望を抱いているために、英語という武器を手に入れる道を選んだ。しかし、大多数が日々フランスの波に飲まれながらも、「仕方ない」と思って生きている。もし、ベナン人がベナン人によるベナン人のための教育を手に入れることが出来たら、「自分たちの教育システムで育ってきた」と思うことが出来たら、彼らのアイデンティティやプライドも変わるんじゃないかと思った。日本から来た、よそ者の私が言えることではないが、「仕方ない」なんかではなく、彼らに選択肢があってほしいと切に願っている。