25のルールと初めてのカツラと挨拶回りとクラリスとしばしのお別れ
12月6日(金)、いよいよ一時帰国前日である。今日は、仕事の研修でベナンの国立大学であるアボメ・カラビ大学に呼び出されている。研修とは言っても、学生たちもまだどんな授業になるかが分かっていないため、私も彼らと一緒になって説明会を聞いていた。その後、部屋を移してより小規模なグループで、「ビジネスを行う上での25のルール」についての講義を聞いた。私が教える学生たちは、起業やビジネスを志している。英語を教えるだけでなく、ビジネスの手法なども学ぶのだ。初心者向けの話なので、私でもしっかりと理解できるものであった。
今日は時間の関係で、25のルールのうち5つまでしか説明されなかったが、ぜひその続きが聞きたいので、日本に帰ってから自分で読み進めようと思う。ちなみに今日聞いた話の1つだけ紹介すると、「自分の給料と家族や緊急用の口座を分けるべし」というものがあった。要約すると、自分の好きなように使える分と、家族に何かあった場合などの緊急時用のお金を分けていない人は絶対に破産するということだ。そして、その口座は必ず、すぐに自分の手の届かないような銀行口座に入れろということらしい。はっきり言って、ベナン人がそれをやっているようには見えない。財布にすらお金を入れない。いつもポケットから直に取り出す。学生たちは頷きながら聞いていたが、本当にやるかどうかは分からない。
幸い、今日は研修は2時までだったので早く家に帰ることが出来た。出発の準備は概ね終わっているが、今日は2箇所、出発前に挨拶に行くところがある。1つ目は、クラリスのヘアドレッサーの方のお姉さんのところだ。クラリスの甥っ子や姪っ子が、出発前に必ず来てくれと言ってくれていたのだ。それだけでなく、実はクラリスのお姉さんに昨日あるものの作成を依頼した。
それは何かと言うと、カツラである。アフリカンヘアスタイルに憧れ、1月下旬にある友達の結婚式に私はアフリカンドレスとアフリカンヘアスタイルで臨もうとしている。当初の予定は、日本の美容院で当日にエクステをつけてやってもらおうと思っていたが、地毛に巻きつけるタイプではシャンプーが出来ないのが嫌であった。さらに、1日だけのために高額なお金を払うのも馬鹿馬鹿しい。どうしようと悩んでいたところに、クラリスが提案してくれたのだ。こっちでカツラを作れば良いではないか、と。なるほど、カツラという案があったとは。しかも、大体20000セファ(日本円で4000円)で出来るというので、それならば圧倒的に安く済む。しかも、クラリスのお姉さんに頼めば信用も出来る。ということで、昨日依頼しに行ったのだ。それを今日取りに行って出発前の挨拶もしてきたのだ。
依頼の段階で、少々気になっていたのだが、デザインを選ぶときに、私が、
"Oh I like this one."
と言うと、クラリスがいちいち口を出していた。最終的にもう完全にクラリスの趣味やん、というくらいクラリスが強引に決めた。しかし、実際に見てみると確かにすごく素敵であった。とても気に入ったのだが、初めてのカツラでどうやってつけたら良いかが分からない。クラリスとお姉さんが装着してくれたのだが、座っている私の前にクラリスが立ってカツラを装着してくれているとき、クラリスのお腹が思いっきり私の顔に当たった。とても柔らかかったので、思わず撫でると、
"Oh my baby."
と言っていた。いつ出来たのだろうか。
つけてみると、ますます気に入った。ロングヘアなんて人生でほぼ無かったので、自分ではないように見えたが、新鮮で鏡を見るのが楽しかった。
クラリスがまた、こうやってヘアアレンジをすると良いとか、手入れの仕方はこうだとか、結婚式にしていくのなら、絶対にこのヘアスタイルにしていけとか、母親のようにいちいち口出しをしていた。私の意向は完全にスルーされていた。でもまあ、確かにとても気に入ったので大満足である。私があまりにもはしゃいでいたので、クラリスのお姉さんも、とても嬉しそうにしてくれた。私のために、価格を少し落としてくれたし、こんなに素敵に仕上げてもらって、ありったけの感謝の気持ちを伝えてきた。
2件目は、先月お誕生日を迎えたベナン人のお母さんとその息子への挨拶である。彼らもまた、出発前にぜひ会いたいと言ってくれたのだ。相変わらず息子のように可愛がっている少年は、つい最近 Facebook を始めたようでメッセージを送ってくれた。Facebook の使い方がよく分からない私にクラリスがメッセージの見方を教えてくれた。可愛い声のボイスメッセージであった。嬉しくてニヤニヤしながら何度も聞いてしまった。
少年もお母さんも、しばしのお別れをとても寂しがってくれたが、2月にお土産を持って帰って、必ず会いに来るつもりだ。少年とはメッセージのやりとりも出来るし、寂しいが、少年が好きな名探偵コナンの英仏対応の漫画でも買って帰ろうか。彼は日本語も少し分かるので、日仏か日英でも良いかな。何を買って帰ろうかを考えることが楽しい。
そして、お母さんは何度も何度も抱きしめてくれた。このお母さんは、私が来るといつも抱きしめてあたたかく迎えてくれる。次に会ったときにも、また思いっきり抱きしめてもらおう。
この家を後にして、まっすぐ家に向かうのかと思いきや、クラリスは、
"This is our last night. Let's eat special dinner."
と言って、とあるレストランに入った。ただあいにく、音楽がうるさく、ゆっくり話も出来そうにないので、持ち帰りにして家で食べようということになった。
今週、クラリスは何度となく "last" という単語を使っている。確かに、実は2月にベナンに戻って、仕事が軌道に乗ったら、いい加減自立のために一人暮らしをするか、あるいは別の家でホームステイをするかを考えていたのだ。クラリスにもそう話してある。いつかは出なくてはいけない。でも、あくまでも予定なので、そんなことを言っても3月も4月もクラリスとまだ住んでいるかもしれないが。
という話をしたからか、クラリスがやたら寂しがり始めた。水曜日には、急にビーチに連れ出されたほどだ。訳を聞くと、
"I don't know when we can go to the beach together next. I want to enjoy being with you."
と言われたのだ。怒りんぼで寂しがりやのクラリス。寂しさを紛らわせるためのお菓子まで買ってきていた。自立を考えているとは言っても、そんなにすぐのことではないし、何より仕事が軌道に乗らない限りはまだお世話になるつもりだ。でも、滞在1ヶ月2ヶ月のときと違って、先が見えてきたから、お互いに少し寂しさを感じているのだろう。クリスマスにはまた鬼のように WhatsApp で電話がかかってくるのだろうか。どんなケーキを食べているのか見せろとか言われるのだろうか。日本滞在は2ヶ月ほど。クラリスと会えないということが、急に現実に感じ始めて私も寂しくなった。