Primary school での英語の授業

 10月10日、今日はウィルが教えている primary school(日本でいう小学校)で一緒に授業をしないかと誘われたので連れて行ってもらった。朝9時に、私が住む場所からバイクタクシーで1時間ほどの場所で集合した。クラリスは仕事があるので、彼女にバイクタクシーを拾ってもらい、行き先と値段交渉をしてもらった。心配性のクラリスも、もうすっかり私を1人でバイクタクシーに乗せてくれるようになった。

 だいぶ遠くまで来たなぁと思ったところで、ふと時間を見るためにスマホを見ると、ウィルから連絡が入っていた。バイクに乗りながら電話をしたり、テキストメッセージを送ることを、ベナン人はいとも簡単にやってのけるが私は怖くて出来ない。片手でバイクにつかまりながら、カバンの中でスマホを操作すると、
 
    "Please ask kekenon where you are now and tell me."
 
というメッセージであった。kekenon(カカノ)は現地語でバイクタクシーのことである。英語を話さないベナン人と現地語もフランス語も話さない私と、どうやって会話をしろというのだろうか。ウィルは時折このような無茶振りをしてくる。しかもカカノは運転中である。話しかけて後ろを振り向かれる方が怖い。とりあえず、今見えている景色や建物を伝えて現在地を知らせた。少々渋滞していたので、恐らく遅刻する旨も伝えておいた。
 待ち合わせ場所はロータリーのようなところであった。ウィルは一度学校に向かってから私を拾いに来てくれた。その間約10分ほどに3人からナンパをされた。最初の頃は、あまりにも日本でされないため、『おお、これがナンパか。』と若干ワクワクしていたが、近頃は「日本人だから」という理由で近寄ってくる人もいることが分かり、適当にあしらっている。今日ナンパしてきた最初の2人は、私が現地語もフランス語も分からないことが分かると渋々退散したが、最後の1人は大学生で英語が通じてしまった。近くの飲食店でバイトをしているそうだ。延々と喋りかけてくるので辟易していたところでウィルが来てくれた。
 いよいよ学校に着いた。Notre Dame des Anges と私立の学校だ。創設者の方(校長先生でもあるようだ)に挨拶をしに行った。そこに向かう途中に教室がいくつかあるのだが、この学校にはドアというものはなく、非常に開放的である。私が教室の横を通ると子どもたちがぞろぞろと出て来て道を塞ぐほど歓迎してくれた。今日はどのクラスを教えるのか、と聞いたところ、primary 1~6 の6クラスで教えるそうだ。創設者の方(男性)に会い、挨拶と自己紹介を済ませた。彼は英語話者ではないので、ウィルに通訳をしてもらったところ、非常に歓迎してくれているとのことだ。また、他の先生たちや子どもたちに事前に私が来ることを伝えたところ、大興奮だったそうだ。とても有難いことだ。それなのに私は遅刻をしてしまった。そのことを詫びると、喋りながら何やらスマホを持って私を手招きで外に誘導した。ウィルが通訳してくれた。
 
    "He said, 'Forget about that. I want to take a picture with you.'"
 
だそうだ。遅刻をしたら、いの一番に責任者に詫びに行き、一目散に教室に向かう日本の学校に慣れていた私は面を食らった。
 

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創設者の Gildas さん(左)、私、ウィル(右)
 我々が遅刻をした分、じゃあ子どもたちは何をしていたかと言うと、何と別の先生が別の教科を教えていた。何て柔軟な。私たちが教室に入ると、その先生がフランス語で、恐らく「今から英語の授業を始める」のようなことを言ったのか、子どもたちは一斉にそれまで使っていた算数の教科書をしまい、ウワーッと熱狂した。子どもたちはウィルのことは見慣れているので、ひたすら、
 
    "Good morning, Wil."
 
を歌のように繰り返していた。最初のクラスは primary 1なので、6歳くらいの子どもたちがいる教室だ。私が自己紹介をし、
 
   "Let's say, Good morning, Maki."
 
と言うと、地鳴りがするほどの声で
 
    "Good morning, Maki."
 
と返ってきた。そしてウィルは何やらスピーカーを取り出した。何と、最初のアクティビティはダンスであった。
 
    "Do you like dancing?"
 
と聞くと、恐らく意味も分かっていないだろうに、
 
     "Yeeeeeeees!!"
 
と子どもたちが答えた。音楽が鳴ると、勝手に子どもたちは踊り出した。中にはシャイな子やダンスが得意で無さそうな子もいたが、大半がまだ6歳なのに自由に体を揺らして友達と手を繋いで踊ったり華麗なステップを披露したりしていた。雰囲気はとても盛り上がり、良いウォームアップとなった。ちなみにウィルはこれを全クラスでやっていた。学年が上がるにつれて、白けるどころかさらに複雑なステップを披露してくれる子もいた。そしてどのクラスでも私のダンスはやはり笑われるだけであった。

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踊りまくる子どもたちとウィル

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曲が鳴っても座って仕事をしていた先生が気がついたら一緒に踊っていた。
 学年が低いクラスでは、Stand up. Sit down. Raise your hand. Open your textbook. Close your textbook. などのクラスルームイングリッシュの確認をした。すでにこれらの導入は、前回までにウィルが行なっているので、私には子どもたちがそれを覚えているかどうかの復習をしてほしいとのことだ。久しぶりに子どもたちの前に立った。
 
    "If I say, 'Stand up.', what do you do?"
 
と聞くと、子どもたちは一斉に立ち上がった。次に、
 
    "If I say, 'Sit down.', what do you do?"
 
と聞くと、一斉に座った。褒めてあげたい、と思ったが、すぐに褒めるのは禁物だ。子どもは、最初に来るのが「立つ」という動作で、次に来るのが  「座る」という動作 と認識している可能性があるのだ。つまり、「英語」で判断しているのではなく、「順番」を覚えてその行動をしているかもしれないのだ。「英語」で判断させるためには、少々意地悪ではあるが、"Stand up." の後に、もう一度、"Stand up." と言ってみる。すると、子どもたちはやはり座ってしまった。
 
    "Listen carefully."
 
と言って、よく聞くよう注意を促した。もう一度、"Stand up." と "Sit down." の音をよく聞かせた。その後で、"Stand up." を何度続けても子どもたちは惑わされることなく、"Sit down." のときにしっかりと座ることが出来た。
 学年が上がるにつれて、アルファベットも導入しているので、その復習をしてみた。ただ単に、アルファベットを私が読んで、子どもたちがそれに続いて読む。何てことないこのアクティビティを、子どもたちの地鳴りのような声が大いに盛り上げてくれた。
 ベナンでは、学校教育では第2言語であるフランス語を習う。つまり、この子どもたちは今まさにフランス語も学んでいるところなのだ。トリリンガルを育てるというのも実に面白いことである。しかも、子どもゆえに実に柔軟だ。間違えようが混乱しようがとにかく言語を楽しんでいる。

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アルファベットの読み方を教えているところ
 また、アルファベットは "A for apple", "B for banana" のように、単語と絡めて覚えていくのは日本と同じではあるが、さすが、アフリカ。日本では、"Y for yacht" とか、"Y for yellow" とかになると思うのだが、ここでは "Y for yam" となっていた。アフリカでは、ヤム芋は主食とも言えるからだろう。
 ウィルは、ここにさらに文を付け足した。apple を導入したついでに、リンゴを食べる真似をしながら、
 
    "I like apples."
 
と言って、子どもたちに復唱させた。さらに調子に乗ったウィルは、教科書に載っているリンゴを掴む真似をし、口に入れ、
 
    "Apple is very delicious!"
 
とも復唱させた。これがまた超絶に可愛いのである。子ども独特の高い声で、皆が教科書からリンゴを掴む真似をし、口に入れ、食べる真似をしながら英語を喋っているのを私はニヤニヤしながら動画に収めていた。この動画、載せたいが残念ながら私の Brog では無理である。
 数字の導入もした。0〜10までをカウント出来るようになっており、そんなに楽しいかというくらい皆楽しそうに "One, two, three" とカウントしていた。ウィルが、私に指で数字を示すように指示した。そして子どもたちがその数字を英語で答えるというクイズである。もったいぶって背中に手を隠し、パッと指で数字を示すと、子どもたちは私が手を背中に持っていく様子から目をキラキラさせて見ていた。
 遅刻したこともあって、本来であれば英語の授業は30分の予定であるそうだが、20分ほどしか時間が取れなかった。慌ただしく教室を移動したが、子どもたちが本当に楽しそうにしていたのが嬉しかった。また、私たちがあまりにも盛り上がっていたからか、隣の教室の子どもたちが見に来たり、子どもたちだけでなく先生たちまでもが見に来て皆で英語の授業を楽しんだ。一応壁はあって隣のクラスと区切られてはいるが、ドアがないゆえに開放的で授業が視覚化されているのは良いと思った。
 つい先日の記事で、私は自分に自信が無くなったということを記した。ベナンの地で本当に英語の先生なんか務まるのだろうかと。今日、ここに来て思ったのは、こんなこと言っていいのか分からないが、自信なんて実はそんなに要らないのかも、と思った。教壇に立てば、必然的にアドレナリンが出て、自信が無かった私を忘れていた。そして、日本でもベナンでも、やっぱり私は子どもたちに助けられる。そしてやっぱり、教えるって楽しいなと思える。教えるというか、子どもたちと一緒にいる教室という空間が好きだ。
 また、まだそんなにベナンの学校を見たわけではないが、この学校の子どもたちは、とても自由である。先生が話しているときはきちんと聞くが、座り方も自由だし、挙手して自分を当ててほしいアピールもとても個性がある。座席も特に指定がないのか、授業中に移動して他の席に座る子もいる。それでもきちんと授業としては機能している。私は、子どもはこれくらいゴチャゴチャしてていいと思う。日本の環境だと少々難しいのかもしれないが、子どもたちが実にのびのびしていて、小さい体を目一杯使って学習している様が見ていてとても愛らしい。
 ついでに言うと、自由なのは子どもたちだけでない。先生たちは、電話が鳴れば教室を出るし、休憩のときには子どもたちと一緒にお菓子も食べる。我々が踊れば教室に入って来て一緒に踊るし、隣の教室から覗き込んでいる子どもたちと一緒に覗き込む先生もいた。ウィルは電話が鳴ると、私に「じゃ、後は頼んだ」と言わんばかりに目配せをして出て行く。今日は何度その無茶振りを食らったことか。
 この学校を見て思ったことはまだある。この学校は私立なので、公立に比べたら物はあるものの、それでも日本に比べたら全然足りていない。教科書も、私立と言えどお金が無い子は買えない。すると、どうするかというと、皆当たり前のようにシェアをするのだ。机の配置がグループ体系になっており、個人の机は無い。つまり、必然的に真隣に誰かがいて、前を向けば誰かがいる。5〜6人がいる机に教科書を持っている子が1人しかいないということもあった。すると皆で顔を突き合わせて見せ合い、奪い合うこともなく、平和に1冊を使っていた。確かに、もしかしたら教科書なんて時にはグループで1冊でも良いのかもしれない。物が揃っていて、一人一冊教科書があるということが必ずしも良いとは言えないのかもしれない。
 さらに、制服についても私は素晴らしいと思った。青地で学校のロゴが入っている布を使っているのだが、男の子はシャツにしたり、Tシャツにしたりしている。一方で女の子は、ワンピースにしたり、シャツにしたりしている。この青地の布とベージュの布を組み合わせてオーダーメイドの制服を作ってもらっているようだ。なので、使われている布を見れば、この学校の子どもたちであることは分かるが、誰1人として同じ制服の子がいないのだ。また、雨の日や制服が汚れてしまった日などは、普通の服で登校してもいいそうだ。個性が生かされて、制服が重荷どころか一つのファッションとして捉えられているのが面白い。
 ベナンの学校では、お昼頃に子どもたちは一旦家に帰る。お昼ご飯を食べるためと、休憩をするためだそうだ。中にはその間に家の手伝いをする子もいるそうだ。その後、15時頃にまた学校に行き、17時頃に帰るそうだ。私たちは午前中で仕事を終えたので、子どもたちと帰るタイミングが同じになった。入り口のところで先生たちと記念撮影をしていると、子どもたちがワラワラと寄ってきて、いつまでもバイバイと手を振って、なかなか帰ろうとしない。もちろん子どもたちとの記念撮影もしたのだが、それでも帰らない。ある女の子は、私が帰ると分かるや否や、太ももに抱きついてきていつまでも離れようとしなかった。やっぱり私はどこに行っても子どもたちの可愛さと優しさに助けられてばかりだなと思うが、今日はエネルギーチャージのため、大いにこの子たちに甘えさえてもらった。行くまでに少々コストがかかるので毎週は無理かもしれないが、また絶対に行きたいと思った。

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先生たちとの記念撮影

 

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子どもたちとの記念撮影

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気がついたらこの女の子は私の足にしがみついていた。
 
 その後、私とウィルもお昼ご飯を近くのカフェで済ませた。そして、本当に奇跡的に今日はずっと晴れている。見渡す限り雲もなく、絶好の機会なので、ビーチに向かうことにした。人もいなく、静かで青い空と砂浜がとても綺麗に映えていた。しかし、結局日差しが私には強すぎて、1時間くらいしかいられなかったのだが。

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ビーチまでの道のり

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ベナンの海
 バイクを止めてあるところまで戻る道に、グラウンドがあったので、少し眺めていった。少年たちはこぞってサッカーをしていた。少女たちは「はないちもんめ」のような、何やらダンスのようなものをしていた。私が通り過ぎると、一斉に少女たちは手招きをしながら、
 
    "Come, come!!"
 
と呼び寄せた。ウィルも、行っておいで、という目をしたので加わってみると、何と「はないちもんめ」のような生易しいものではなかった。手拍子をしながらタップダンスのようなものを踊るのだ。まず、ぜんっぜんリズムがつかめず、たかだか手拍子が出来なかった。そこで私はまた笑いを取った。ゆっくりやってくれても分からないものは分からない。少女たちは、どうしてこれが分からないのか、という感じで笑いながら教えてくれるのだが、私にもなぜ分からないのかが分からない。おかげさまで汗だくになった。
 すると、何ともちょうど良いところに、おばちゃんがジュースを売っていたので、ウィルが買ってくれた。パイナップルジュースだそうだ。ベナンはパイナップルが本当に美味しいと聞いている。すかさずご馳走になり、飲んでみると、衝撃的な美味しさであった。冷たくて、甘さが絶妙なのだ。乾いた喉にちょうど良く、思わず一気飲みをした。

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絶品のパイナップルジュース
 帰りは、ウィルの家に向かう途中まで乗せてもらい、そのあとはバイクタクシーを拾ってもらった。バイクタクシーに乗っているとき、日本でお世話になった2つの学校のことを思い出した。ベナンの子どもたちと同じように、私の生徒たちも本当にかわいかった。今になってますますそう思う。生意気を言っても宿題をしなくても反抗してきても、それでも大好きだった。日本を離れるとき、正直言うと高校3年生の子たちはどうせ卒業でお別れするのだから、離れる覚悟が出来ていた。でも当時の中学1年生と2年生の子たちは、その後いくらでも成長を見届けられたかもしれないのに、それを手放してきたのだ。同僚にも上司にも生徒にも恵まれた、あのあたたかな巣を後にしてここまで来たのだから、自信が無いだなんて甘ったれたことを言う前にやるべきことや、やれることなどいっぱいあるではないか。とは思っても、まだ完璧に悩みが払拭出来たわけではないが、少なくとも、やるべきことや、やれることに取り組めば何かが変わるような気はする。悩むのは嫌いだし、白黒はっきりさせるのが好きな私だから、早くこの状態を脱することが出来るように、もがきながらでもちゃんと前に進みたいと思った。