子どもを持つ幸せと電子機器は大切に

 10月2日、昨晩もあるベナン人のお家に泊まらせていただいた。朝、私が部屋にいるとドアをノックする音が聞こえた。開けると、この家の少年がいた。「ベナン人の少年」で記した、イケメンかつ頭脳明晰かつ紳士的な、私が息子のように可愛がっている少年である。

     彼は少しもじもじをしながら、
 
    "Good morning."
 
と言った。
 
    "Good morning. Are you going to school?"
 
と聞くと、
 
    "Ah yes..."
 
と言いながらまだもじもじしていた。そこで私は彼の服を見て気づいた。昨日、今日学校に行く前に制服を見せてくれると約束していたのだ。わざわざ見せに来てくれたのだ。
 
   "Oh, is this your school uniform?"
 
と聞くと、
 
 
    "Yes!"
 
と、笑顔でうなずいた。さらに、私が昼過ぎに帰ることを告げると、
 
    "I'll be not here..."
 
と残念そうに言った。彼は学校にいるからだ。もう、何なんだろうか、この幸せは。子どもが欲しい願望が芽生えたではないか。母親の気持ちで彼を見送った。
    昼過ぎから雨が激しく降り始めた。雷もすごい。仕事で抜けられないクラリスの代わりに、ウィルが迎えに来てくれることになっていた。しかも、昨日私は大失態を犯した。スマホを充電するためのケーブルを壊してしまったのだ。私のケーブルは Type C であり、ここベナンで広く流通しているものとは異なる。クラリスも持っておらず、家の近くでは買えないだろうとのことだ。従って、空港近くにある超大型のスーパーであるエレバンというところに行かざるをえなくなった。ウィルにそこに連れていってもらうよう頼んだのだ。基本的に外国人や富裕層をターゲットにしたスーパーで、価格も高めに設定してある。
 私は毎月のように要らぬ出費を重ねている気がする。8月は最初に買ったSIMカードが機能せず、別のものを買い直したし、9月は病気三昧であったし、さらに9月はWi-Fiモデムの調子も狂って買い直した。そして10月はケーブル。日本と違って、買った電子機器が必ず機能するとは限らない。買った時点で壊れていることもザラにある。クラリスが買ったタコ足配線は、10個穴があるがそのうち2個しか機能しない。家のコンセントと相性が合わないときもある。風が強いと窓から砂が入って電子機器がやられるという場合もあるそうだ。日本より安く買えるとは言え、どこでも買えるわけではないし、買ったものが使えるとも限らない。「ものを壊さないように大切に使う」ということを日本にいるとき以上に肝に命じていたはずなのに、私はケーブルを壊してしまったのだ。しかも Type C。ベナンに来て同じものを使っている人は見たことがない。ウィルもエレバンに売ってあるかどうかも分からないとのことだ。雨がおさまるのを待って、とりあえず行ってみることにした。
 エレバンにいると、ここがベナンであることが信じられないくらいに外国人ばかり見かける。空港近くの住居も外国人エリアとなっているようで、彼らの日常的な買い物をする場所になっているようだ。とても広いため、色々と目移りをして要らぬものまで買いそうになる。
 ベナンでの大きめのスーパーでは、大きな荷物は万引き防止のため、コインロッカーに預けることになっている。小さいバッグや財布だけを持って店内を歩くのだ。入り口にはガードマンが立っており、大抵は銃も持っている。しかし、物々しさはない。たまにガードマンは銃を下に置いて昼寝をしているときもある。大丈夫だろうか、この国は。
 さて、ケーブルなどの携帯電話用品は入り口近くに売っているようだ。お店の人に、壊れている自分のケーブルを見せ、これと同じものが欲しい旨を伝えるとすぐに出してくれた。良かった、売っていた。試しにつけさせてもらったが、きちんと型も合っている。15000セファという痛い出費ではあったが、これで無事にスマホを充電出来る。ウィルは、1時間かけてバイクで私がお世話になっている家まで迎えに来てくれて、1時間かけてエレバンまで連れて行ってくれて、また1時間かけて家まで戻るのだ。だから、交通費を払うと言ったのだが、全く受け取ってくれなかったので、ウィルのお嬢さんたちに、と思って、お菓子を買ってプレゼントをした。
 帰る頃には19時頃になっていた。ベナンは、昼間は汗ばむ日もあるが、夜は涼しい。ましてや夜にバイクに乗ると寒いくらいである。ちなみに私はワンピース1枚だが、周りを見渡すとベナン人は毛糸の帽子にダウンコートを着ている。ウィルもそうである。まるで日本の11月の服装である。
 無事に家まで送り届けてくれたウィルに別れを告げ、買ったばかりのケーブルがクラリス家のコンセントとも合うかを確認したところ、きちんと充電された。良かった、と安堵をし、ちょっとしたパソコン作業をしょうと勢いよくリビングの椅子を引いて座った。何だか椅子のバランスがおかしい。引いたときに何かを引きずり、椅子の足に何かが挟まったようだ。何だろう、と思って確認した。血の気が引いた。何と、私は勢い余って、その場にあったパソコンの充電器を引きずり込んでいた。急いで傷がないかを確認すると、若干えぐれていた。大きなため息が出た。充電出来るかを確認すると、辛うじて急所ではなかったようで、充電は問題無く出来ていたが、劣化は早まっただろう。「気をつけよう」と思った矢先に、どうして私はまた調子に乗ってこんな大失態を犯すのだろう。11月はパソコンの充電器で出費が嵩むのだろうか。早くも気が重くなった。