リターン準備とクラリスの心配事とまだ見えないもの

 11月26日(火)、今日も暑く、汗だくで仕事から戻ってきた。昨日、クラファンを無事に終え、夜にはリターンの数も決まったのでクラリスが今日中に手配することになっていた。今日戻ってみると、早速クラリスが見せてくれた。数も品物も間違いなかった。今週の金曜日に、支援する子どもが通う学校に出向き、挨拶をすることになっている。

    キーホルダーありのコースを選んだ支援者の皆様は、もれなく私と私の上司のクレオパトラとお揃いになる。たまたまクレオパトラが同じものを持っており、私も買ってもらったのだ。
    ポストカードは思ったより素敵なポストカードで、ベナンらしさが出ている。ペンケースは、ベナンの布を持ち帰り、日本の友人に作成を依頼している。支援者の皆様に気に入ってもらえると確信している。
    今夜もクラリスと今後の予定について話しているときに、彼女がこう言った。
 
 
    "Maki, I really want to say Thank you."
 
 
支援者の皆様に向けての言葉と思いきや、私に向けた言葉だという。
 
    "You don't need to say Thank you to me. I didn't do anything special."
 
と言うと、
 
    "Yes, you did everything!"
 
と言った。謙遜ではなく、本当に『ありがとう。』と言われるに値することはしていないと思っている。この土日に、ベナンにいる青年海外協力隊に会ってから、少し引け目に感じていることは事実ではあるが。
    協力隊員は厳しい試験や面接を乗り越え、現地の人と関わりながら任務をこなす。まさに現地の人の役に立つことをしている。
    一方私はというと、元々人の役に立ちたいというモチベーションは無いものの、もちろん邪魔をしたいとも思っていなかった。
    ところが今はどうだ。生活のほぼ全てをクラリスに頼り、VISAカードが使えないためにお金を下ろすことすら出来ず、知人にお金をもらい(そしてオンラインで私がその人に振り込む)、現地の人の役には一ミリもたってない。ましてや無給である。役に立つどころか、たくさんの人の邪魔をしに来たとも言える。
    ということをクラリスに伝えると、クラリスは眉間にシワを寄せてこう言った。
 
    "I don't know why you are saying that. I don't want you to compare yourself with others. You came from Japan, Japan!, the richest country!, to this poor country by yourself. Does the Japanese government give money to you? No! You never depend on anybody financially. You even pay tax now. You are even trying to help children here. It is not easy. It's a big challenge. Nobody can do it."
 
とまくし立てた。経済的に誰にも頼っていない、のところは厳密に言うとクラリスにはいくらか立て替えてもらったこともあるし、日本で払いきれなかったものは親が代わりに払った。最後の子どもたち云々に関しては、私は先生なんだからそりゃ放っておけない、と口を挟むとさらに、
 
    " I know many teachers. But no teachers are thinking about that. Even the local teachers don't care about poor children. But you are a foreigner. A foreigner from a rich country came to a poor country and help children. I cannot believe it. And you don't get the salary. If I were you, I would run away!"
 
珍しく庇うではないか。ちょっと感動した。
    でも、クラリスは多分私のことを心配しているのだと思う。私が一時帰国の後に再びちゃんとベナンに戻ってくるかどうかを。最近感じるのだ。帰りの飛行機はすでに取ってあるのかとか、日本に行ったら日本の生活の方が恋しくなるのではないかとか、家族や友達に会ったら離れたくなくなるのではないか、とかを聞いてくるからだ。私がもうベナンに嫌気がさして、日本での生活を選ぶのではないかと思っているのだろう。強気で強引なクラリスなんだから、『絶対に戻ってこいよ、戻んないとどうなるか分かってんだろーな、おい。』くらい言えばいいのに、さすがに人の人生のことなのだから、クラリスとてそんなことは言ってはいけないと思っているのだろう。
 7月末に来てからから早4ヶ月。色んなことがあった。楽しいこともあるけれど、嫌なことも大変なこともたくさんあった。そして、ベリから給料が出ていないことが、生活の大打撃になっていることは言うまでもない。それに関しては一時帰国前にカタをつけるつもりだ。何れにしても、ベナンにはまた戻るつもりでいるし、何よりクラファンをこんな中途半端なところで投げ出すわけがない。2人で今後の夢の話もたくさんした。
 クラリスには言わなかったが、最初はベナンに戻る日は日本に着いてから決めようと思っていた。片道ずつ買う方が往復で買うより安く済みそうだったからだ。しかし、私は自分の弱さが分かっている。片道ずつ買ったら、ベナンに戻る日を先延ばし先延ばしにしてしまうかもしれない、と思ったのだ。だから、少々高くついてもあらかじめ戻る日を決めておいた方が良いと思ったのだ。
 心配性のクラリスだから、安心させるために『大丈夫だよ、ちゃんと戻るよ。』とは伝えているものの、その3分の1くらいは私自身に言っているのかもしれない。だって、生活自体は、そりゃ日本の方が良いに決まっている。家に Wi-Fi は通っているし、近くにコンビニはあるし、電車やバスもあって移動は楽だし、再び先生として働けば毎月決まった額が振り込まれ、ボーナスまで入る。遅く起きても洗濯は洗濯機がやってくれるし、災害でも無い限り、電気も水も止まらないし、どれほど暑くても寒くてもエアコンが適温に保ってくれる。
 でも、心の満足度はベナンでないと得られない。自分がやりたかったことは、ここベナンでないと出来ない。ベナンに来なかったら、きっと私は死ぬときに『何であのときチャレンジしなかったのだろう。』と後悔していただろう。幸か不幸か、色んな人に助けられて、時に流されてここまで来た。多分、何か縁があるのだと思う。まだ何も目に見える結果には繋がっていないけれど、まだ自分がここにいる意味も意義も分からないけれど、それが見えてくるまでは日本には戻らない。