ベナンへ戻る

 2月2日(日)、いよいよ日本滞在も終わり、今日の夜ベナンに向けてまた旅立つ。2ヶ月近くいたことになる。到着したばかりのときは、ベナンに戻るまでまだまだあると思っていたが、何とあっという間であったことか。会いたい人に会い、多いに働き、何とも充実した滞在であった。引越しもあったので、ちょっと忙しすぎたのが辛かったが。寝不足もだいぶ続いている。

 昨日は1日、実家に運び込まれた私の荷物の整理をした。3年前、突如荷物をまとめて一人暮らしをする宣言をしてから、まさか3年後に出戻ってくるとは、この荷物たちも思わなかっただろう。かつての私の部屋はもはや、物置と化していた。私の一人暮らしの部屋も失っただけでなく、実家の部屋も失った。もう私の日本での居場所はない。もちろん実家は私を歓迎してくれるが(多分)、寝床は無い。
 2ヶ月前、日本に到着したとき、若干誰だか分からないほどに焼け、真冬なのに半袖で成田に降り立ち、側から見るとやばい人であった。しかし、2ヶ月日本に滞在していると、不思議なことにまた肌の色が戻っている気がする。そして、今度こそ冬に戻っても大丈夫なように、長袖も持っていくことにした。
 いや、長袖どころか、もっと反省しなければならないことがある。東京駅のエスカレーターで転げ落ちたことだ。あれは本当に後ろに人がいなかったことが奇跡だった。もしいたら、と思うとゾッとする。あれ以来、スーツケースを持って移動する際には遠回りになったとしても、絶対にエレベーターを使うと心に決めた。
 そして今回、家から成田までの向かい方を考えた。色々調べていると、何と東京駅からバスが出ているというではないか。しかも、1000円で。電車を使うより圧倒的に安いではないか。迷わず予約をした。東京駅ですっ転んだことを知っている父が、東京駅まで手伝ってくれるというので、しっかりと甘えることにした。また、謎に姉も来るというので、手伝わせてあげた。しかし、姉はとても非力なので、姉に重いスーツケースを持たせることの方が不安である。「キャー」と言って、いつスーツケースごと倒れるんじゃないかとヒヤヒヤする。とりあえず、2人の厚意はしっかりと受け取り、2つのスーツケースを持ってもらうことにした。
 無事に東京駅に着いて、バス乗り場に向かった。だいぶ早く着いたので、父と姉と3人で並んで待つことにした。ここに並んでいる人は皆成田に向かう。ちょっと異様だったのが、新型肺炎が蔓延している影響で、成田に向かう人のほとんどがマスクをしていた。私も、何でこんな時期に帰国なんだか、と思ったが、チケットをすでに買ってしまっていたのだから仕方ない。見送りに友達が来てくれる予定だったが、丁重にお断りをした。
 いよいよバスが来て乗り込んだ。出発まで、父と姉がいつまでも手を振ってくれていた。この光景も見慣れたものだが、やはりちょっとウルっとくる。やりたい放題出来ているのは、父と母が健康でいてくれているからであり、姉がいざというときに手伝ってくれるからだ。クラウドファンディングの件でも姉には随分と世話になった。口に出していうのはなかなか恥ずかしいが、ちゃんと感謝しているのだ。

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父と姉と。周りもマスクだらけで、やはり異様であった。
 成田に無事に着いた。チェックインの前に、済ませるべきことがある。それは、スーツケースの重さを測ることだ。ちょっと、というかだいぶ怪しいのだ。家の体重計でも一応図ったが、スーツケースを体重計に乗せることができず、きちんと測れていなかった気がする。ということで、早速測ってみた。23キロまでが無料なのだが、1つは22、7キロで、もう1つは28キロと、見事にオーバーしていた。しかも、父が持ってくれていたスーツケースに、クラリスのお姉さんに作ってもらったカツラを入れていたのだが、それが微妙にはみ出していた。ぱっと見、人の頭部でも入っているんじゃないかと思う。スーツケースの中身は、色々な方にいただいた支援グッズだ。ペンやノート、服、ベナンの子どもたちにと、たくさんの方々から頂戴した。壊したくないので、それらはスーツケースの方に入れたままにしておいた。カツラは機内持ち込みの手荷物の方に入れていくか。同じように、機内に持ち込んで良いものをとりあえずボンボンと取り出し、何度も測り直して、最終的に22、9キロにまでなった。
 チェックインを済ませるために並んでいると、とあるアフリカ人夫妻に話しかけられた。エチオピア航空なので、アフリカ人が多い。そして、彼らは実にフレンドリーなので、私もよく話しかけられる。大体、私が学生ではないことを告げると驚かれる。
 自分の番になったとき、重いスーツケースを2つ転がしていると、グランドスタッフが駆け寄って助けてくれた。本当に日本人は優しいと思う。チェックインをしながらも、『お仕事ですか?』『なるべくマスクをしたままでいてくださいね。』と、色々気遣う言葉をかけてくれた。前の私だったら、これを気遣いや優しさとは認識せず、当たり前と思っていたかもしれない。しかし、クラウドファンディングのおかげで、私は日本人の優しさにすぐに気づく。
 無事にチェックインも済ませ、セキュリティチェックに向かった。パソコンやサブバッグは問題なかったのだが、リュックの方が再検査になってしまった。液体は入れていないはずだし、何だろうな、と思ったが、やましいことはないので、再検査を大人しく待っていた。たまたまそのとき他に人がおらず、静かだったので、エックス線に通している2人の職員の声が聞こえてしまった。
 
 『これは…カツラだよな?』
 
思わず吹きそうになった。引っかかったのは、カツラのせいだったのか。やはり、人の頭部と思われていたのだろうか。私にリュックを返してくれた職員にも、
 
 『これ、中身カツラですよね?』
 
と聞れかた。何だかちょっと恥ずかしかった。
 
 『あ、はい。』
 
と小声で返しておいた。
 無事に(?)セキュリティチェックも出国審査も済ませた。日本を出たのだ。また、あの非効率的な国に戻るのだ。我ながら本当に物好きだと思う。
 搭乗まで待っている間に、地方に住む友達と彼女の子どもとビデオ電話をした。残念ながら、日程的にそして金銭的に彼女たちに会いに行くことが出来なかった。遠く離れていてもいつも私を応援してくれている彼女と彼女の家族と、私が姪のように可愛がっている子どもと、スマホ越しにではあるが、会うことが出来て良かった。子どもの成長は早い。本当に大きくなったなと思う。次に会うときもまだ抱っこさせてくれるだろうか。帰る楽しみがまた1つ出来た。
 出稼ぎ先の人にも本当に良くしていただいた。短期間ということで、雇う側にも色々手間や迷惑をかけたと思うが、また帰国したら戻っておいでというお声をいただいたのが本当に嬉しかった。文字通りに受け取って、またぜひ帰国のときにはお世話になりたいと思った。
 この一時帰国中に会ってくださった皆さま、ご飯をご馳走してくださった皆さま、ベナンの子どもたちへたくさんのプレゼントを下さった皆さま、ベナンの話を熱心に聞いてくださった皆さま、出稼ぎ先の皆さま、本当にありがとうございました。

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大好きな家族と出発前に。

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バスに乗り込む直前。