イケメンとステテコと私がやりたいこと

 8月12日、この日は念願のハンガーラックを買うことに成功した。クラリスにとって買うべき物の優先順位が低いため、いつも "Let's go to buy tomorrow." だの "We can go next week." で先延ばしにされていたが、この日はクラリスからその話を持ち出された。彼女は何と、Facebookなどで安く買える手段を探してくれており、ついに新品で安く買える良いものを見つけて、画像を見せてくれた。色といいデザインといい、全く申し分無しなので彼女にお願いした。
    すると、売ってくれる人が今日中に来てくれることになった。Amazonの翌日配達より早いではないか。ワクワクして待っているとついに来た。クラリスは、これまでもそうだったが友人でも家族でもない人を家に入れるときは最初は私をかくまう。財布やら貴重品も全て寝室に引き上げさせ、私はまたいつぞやの停電のときのように寝室に引きこもった。からして、届けてくれたのは男性だった。
    何を話しているのかは分からなかったが、この前のような言い争いのようなものはなく、穏やかに会話をしていた。しばらくすると、クラリスが呼びに来た。これが彼女なりの優しさなのだ。彼女の中で、来客が私に危害を与えるような人ではないと確信してから私を寝室から出してくれるのだ。信用して出てみると、何とも人の良さそうなイケメンが笑顔で組み立てまでしてくれているではないか。実は、本日はWi-Fiモデムの調子が悪く、モデムを売ってくれたクラリスの友達のジョゼフさんも午前中に来てくれていたのだが、ジョゼフさんもまた絵に描いたようなイケメンなのだ。今日は2人のイケメンと出会ったなーとほくそ笑んでいたところに気づいたのだ。自分の出で立ちに。メガネ、素っぴんは言うまでもなく、ベナン人にならって上はタンクトップ(ただしこれは日本の下着に当たるもの)、下はムーミンのステテコ。おまけに謎に下着をステテコにインしているという、ダサいを通り越して、もはや日本なら怪しまれるレベルであった。かろうじてムーミンのステテコの柄が、奇跡的にアフリカ布に似ていてクラリスにはとてもウケていた。(ただ派手というだけの理由だと思う。)

 

 

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夕方ごろ、この姿でいつも通り子どもたちと遊んだ。



    そしてそんな格好で彼のお見送りをし、本当はそのあとクラリスとビーチに行く予定だったのだが、クラリスはひとつ予定を入れるとそれだけで疲れるので (注:今回は人を呼んだだけ。しかも組み立てまでやってくれた。)、ビーチは翌日に持ち越されることになった。そしてその約束は8月22日現在も果たされていない。

 寝るとき、いつものようにお互いのことを話していると、クラリスがふいに言った。

    "Maki, what do you want to do in Benin?" 

確かに、何しに来たんだっけ、と久しぶりに考えた。私は『ベナン人のために』とか『ベナンのために』と思ってここに来たわけではない。ただ単に自らの可能性を探るべく、2018年12月にはじめてアフリカの地に降り立った。そして自分が抱いてきた夢、『発展途上国で英語を教えること』を実現したかった。ただそれだけである。つまりただの自己満足である。結果としてそれがベナン人やベナンにとってプラスになれば良いことだが、まずは『自分がやってみたいから来た』だけだ。
    ところが今、長期的にベナンに根を下ろそうとして、クラリスと暮らし、極力早く『お客さん』であることから脱するべく、地元の人達となるべく交流を深めた今、発展途上国で英語を教えること』以外に2つ、実現したいことができた。
    1つはゴミ問題を解決することである。いつかのブログにも記したが、これだけは本当に受け入れられない。ゴミをそこら辺に捨てていいわけがない。どうにかして少なくとも私が今いる地域だけでも道路にゴミが落ちていない状況を作りたい。
   2つ目は、ベナン識字率を上げることである。ベナン識字率は恐ろしいほどに低い。成人識字率は33%だそうだ。(ユニセフ『世界子供白書』2017、外務省ホームページ)
    1つ目の方は残念ながら解決の糸口がちっとも見つからない。ベナンでは地域によってはお金さえ払えばどこかの団体が回収してくれるようだが、そのお金が払えないからこういう状況なのだ。地元の人たちだけで出来て、お金もかからずにこのゴミを処分する方法を思い付いた人は是非ともお知らせ頂きたい。
    どちらかというと2つ目は現実的なのではないかと思う。クラリス曰く、日本円にして、


教材費…3000円
制服…1000円
朝食 (ベナンでは学校で朝食を食べることになっている)…7000円

あくまでも大体ではあるが、合計11000円が、1人辺り1年間でかかる費用だという。この子たちを学校に行かせてあげられないだろうか、という話になった。どのようにしてこのお金を捻出するかを話し合ったところ、やはり募金が一番良いのではないかということになった。
    ちなみに、クラリス曰く、この近所でもざっと30人は学校に通えない子がいるとのこと。クラリスと同じアパートに住む一家の女の子もそのうちの1人かもしれない、と言う。クラリスも確信が無いようだが、確かに平日の昼間にもよく見かける。     
    彼女も含め、この子たちを学校に行かせてあげたい。読み書きを習う場を提供したい。これが、『お客さん』としてではなく、ベナンに根を下ろそうとしている今の私が最もやりたいことである。『ベナン人を』というより、『この子たちを』学校に行かせてあげたい。そしてこれもまた、『この子たちのために』というよりは、自分がこの状況が嫌なだけだ。学校に行けない子どもがいる状況を、私自身が受け入れられないからどうにかしたいのだ。
    この日はクラリスとこのような話をして、ではそろそろ寝ようか、というときにクラリスが外へ出た。彼女は時折外の空気を吸いに出るので何とも思わなかった。戻ってきたクラリスが言った。

 

    "As I said, she doesn't go to school."


えっ、聞きに行ってたんかい!クラリスは、日本だったら絶対にアウトな質問を堂々とする。(8月3日のプロフェッショナルの件も同様。) しかし、せっかく聞きに行ってくれたので詳細を聞いた。他の兄弟は学校に行っているのに、なぜ彼女は行っていないのかを聞いてみると、要約するとどうやら彼女だけ他の兄弟と父親が違うそうだ。なぜかは分からないが、養育費をもらえていないのでは、ということだ。このようなプライベートなことを堂々と聞きに行くクラリスもすごいと思ったが、このようなプライベートなことを堂々と隣人に話せることもまたすごいことであった。しかし話は早くて助かった。
    11000円で学校に行くことが叶う子どもたちがいるのか。でも逆に言うと、そのお金が捻出出来なくて、子どもの読み書き能力を身につける機会は奪われていくのか。しかし、親だって食べさせるだけで精一杯なのだろう。誰も責めることは出来まい。明るいベナン人の笑顔の向こうにある、ちょっと影の部分を見た気がした。