24%の "アレ" と尋常じゃない眠気

 9月7日、昨日おケツにぶっ刺された注射が効いたのか、熱はすっかり引いていた。今日は、血液検査の結果が出る日でもあるが、私が先日からお邪魔し続けていた学生さんたちが帰国する日だ。彼らのうちの大半は先週のうちに帰国をしていたのだが、今日帰国する学生さんたちもいる。本当は空港に見送りに行きたかったのだが、マラリアで空港に現れて心配させるわけにもいかない。クラリスも見送りに行きたかっただろうに、彼女は私の病院を優先してくれた。空港に到着したであろう時間に、クラリスがビデオ電話をしてみると、何とウィルが写っていた。行ってたんかーいと2人で爆笑をしつつ、お別れの言葉と感謝の言葉を伝えることが出来た。学生さんたち、本当にありがとう。今の私が言える最後のアドバイスは、潜伏期間があるので、帰国してからも数週間はマラリアに警戒をしてください、ということです。

 さて、私とクラリスは昨日と同じ病院にいる。昨日クラリスが激しく抗議したところだが、昨日のうちに和解している。(詳しくは 「"アレ" の正体とクラリスの抗議と注射」を見ていただければと思う。)到着すると、またクラリスがテキパキと動いてくれた。また待ち時間はほぼ無く、すんなりと検査結果を受け取ることが出来た。チラリと見ただけでは、全く見方が分からなかったので、後でクラリスに訳してもらおうと思ったら、
 
    "You've got malaria."
 
と言われた。え…こんな宣告の仕方あるか。検査結果を受け取って、薬の手続きに向かっている最中、歩きながら、何てことないようにクラリスはこのセリフを言った。普通、大事な宣告をする際、医者と患者が向き合って、『残念ですが…』とか言ってから本題に入るのではないか。もちろん、マラリアは不治の病ではない。だからこそこうして呑気にブログなんか書いているのである。しかし、私にとっては未知の病だ。治るのは分かっていても、そうやすやすと『あ、そうですか、マラリアでしたか。』などと受け入れられるわけではない。それなのに、クラリスは、あっさりと私に宣告した。
 まあいい。ドキドキハラハラするより、サラリと言われる方が確かに良いか。しかも、数値が24%であるという。私はてっきり、マラリアマラリアでないか、つまり、陽性か陰性かのみが分かるのかと思ったが、どうやらマラリアマラリアでも、さらに数値を出して重症か軽症かを教えてくれるのだそうだ。そして私は24%。何とも微妙な数字に見えるが、クラリス曰く、入院や点滴の必要も無い、薬で治る軽症だそうだ。従姉に話したら、『まきちゃんの4分の1はマラリアで出来てますってことなのかな。』と言われた。そう考えると恐ろしい数値である。まあ、おそらく早めに病院に行ったことで数値も低かったのではないかと思われる。
 軽症と分かった今、そして熱も下がっているので、クラリスは大いに私を連れ回した。まずはクラリスのお姉さんのところへ久々に挨拶に行った。子だくさん一家なので、またここでも大いに歓迎してもらえた。そして、冷たいビサップジュース(ハイビスカスから作られるジュース)をちゃっかりご馳走になった。これがとてつもなく美味しいのである。クラリスのお姉さんが私にビサップジュースを差し出すと、クラリスは、
 
    "She has never given it to me!!"
 
と言った。これはまた申し訳ない。数え切れないほどここに来ている妹のクラリスより滞在1ヶ月の客人の私が頂くとは、何とも申し訳ないのだが、これはあまりにも美味しいので遠慮なく頂いた。ちなみにクラリスもちゃんともらっていた。ビサップジュースはエナジードリンクではあるが、作るにしても買うにしてもまあまあ高いのだ。これを私は贅沢にも4杯ほど頂いた。
 ふと、視線を感じた。とある男の子が私を見つめている。見慣れていないが故に、外国人を見ると怖がる子どももいる。しかし、彼とは何度も会っているのに一向に警戒心が解けないようだ。ところが、クラリスにこう言われた。
 
    "He is just shy. He loves you, but he cannot come to you."
 
聞けば、クラリスだけでここに来るとき、彼はしきりに私のことを聞くらしい。今度はマキも連れてこいとも言っていたらしい。何と嬉しいこと。ここではいつも天皇陛下並みの扱いを受ける。私のグラスが空になるとすかさずビサップジュースが注がれる。久しぶりに外でゆっくりとした時を過ごした。
 夕方頃、家に帰った。またもやクラリスが私の大好物の料理を作ってくれた。なお、これは今日知ったのだが、てっきりアフリカ料理だと思っていたらどこかのヨーロッパ料理であったらしい。食事が終わると、クラリスがまたもやお母さんのように、見張りながら私が薬を飲むのを見ている。
 
    "You don't have to worry. I don't forget."
 
と言ったのだが、
 
    "I'm sure you will forget tomorrow."
 
と言われた。そして実際私は翌日の昼に飲むのを忘れ、クラリスにこっぴどく怒られたのである。目の前にある薬をどうして忘れたのか、治す気があるのか、とお説教を聞きながら、子どものように私は縮こまっていた。
 ここで、日本の読者の皆様には全く役に立たない知識ではあるかもしれないが、万が一マラリアにかかったときのためにぜひ参考にしてもらえたら、と思うことを記しておく。
 
・アフリカで蚊に刺された
・風邪を引いた覚えがないのに熱が出た
・体温がガーッと上がっていく感じがした
・頭痛がした
 
以上4点が私がマラリアを疑った症状である。これらを見る限り、ただの風邪や生理痛などと勘違いする人も多いのだと言う。実際、日本ではアフリカ渡航歴を申告していなければ風邪と誤診されることが多いそうだ。また、私はそれほどでも無かったが、熱が出たり下がったりを繰り返すのもマラリアの特徴だ。
 
そして、ついでに処方された薬のことも述べておく。
 
この薬たち…
 
実は…
 
何と…
 
恐ろしいほどに眠くなるのである。これは本気で言っている。特に昼に飲むと間違いなく睡魔が襲い、そのまま夕方まで目が覚めない。飲むことになったら車の運転は絶対にしない方がいい。しかも、全力で寝ているのだ。私は全く覚えていないのだが、どうやらクラリスと昼寝をしているときに私は突然楽しそうに笑い始め、蚊帳を押しのけ、ベッドから手がはみ出たそうだ。驚いたクラリスが手を私のベッドに戻してくれたそうだが、ちっとも覚えていない。夢の内容も全く覚えていない。
 人から人への感染はしないとはいえ、出掛ける気分にもなれず、家で安静に過ごしている。治ったと思ったら復活するのもまたマラリアの特徴だ。耐性が出来たのか、数日すると眠気は治まって来ている気がする。しかし、ここ数週間何やかんやで目まぐるしかった。ここぞとばかりに今は休養することにしよう。

f:id:MakiBenin:20190911222512j:plain

もらった2種類の薬。表面に青字で線が引かれているのは、私が薬を飲み忘れた直後に、クラリスが「2度と忘れるな」と言って、左のは1日3回、右のは1日1回という意味で書いてくれたのだ。