クラリスが日本に来たら

 9月15日、薬も飲みきり、副作用などないのに眠気に襲われた私は昼寝をしようと寝室に入った。すると、クラリスが先日ベナンに来ていた学生さんとビデオチャットをしていた。少し私も乱入して、ビデオチャットを終えると、クラリスがこう言った。

 
    "Can you take me to Japan someday?"
 
もちろんである。クラリスは日本人と触れ合うことが多くなって、日本に興味を持ち始めたのだ。クラリスベナン国外に出たことが今だない。クラリスこそ、海外に出て欲しいと私は常々思っている。しかし、その後、彼女はこう言った。
 
    "What do Japanese people think of me?"
 
質問の意味がはっきりと分からず、答えに窮していると、続けてこう言った。
 
    "I mean...because I'm black."
 
彼女がこう言った瞬間、勝手に私の口から飛び出した言葉は、
 
    "Do not care about that. It doesn't matter."
 
であった。さらに彼女は何てことなさそうに、こう言った。
 
    "Do they think I'm like a monkey?"
 
その刹那、私の目から涙が出た。その場面を想像してしまったのだ。彼女がウキウキしながら日本を歩いていると、心無い日本人に差別的な発言をされている場面を。ただの想像なのに悔しくて悲しくてたまらなかった。私は彼女にかつて、はっきりとこう言った。日本には人種差別をする人が少なからずいるということを。白人至上主義のごとく、外国人といえば色が白くて金髪で青い目をの人のことを指し、他のアジア人や黒人を下に見ている人がいる、ということを。日本のことを正しく知ってもらいたいだけだ。良いイメージだけを持って、日本の現実に打ちのめされてほしくないからだ。彼女はこれを覚えていて、私に聞いたのだ。幸い、クラリスには泣いているところを見られずに済んだが、涙声にならぬよう、こう言った。
 
    "If Japanese people say that, I'll beat them. I'll protect you from any discrimination. I promise."
 
もちろん、実際には殴りはしない。ビンタ一発くらいはするかもしれないが。しかし、そんな奴もどれほど時間をかけてでも教育し直す。黒人を差別することも絶対に見逃さないが、クラリスを悪くいう奴は誰であっても断じて許さない。クラリスは私の大事な友達だ。2018年12月に初めて会っただけなのに、私をルームメイトとして迎えてくれたクラリス、お茶目でおしゃべりや歌が好きで料理上手なクラリス、頭が良くてしっかり者で仕事もすごく早いクラリスクラリスの良さは挙げればキリがない。そんなクラリスをもし日本に連れて行くことになったら、絶対に楽しいと思った。初めて見る寿司にワーワーキャーキャー言うだろうな、遊園地に連れて行ったらどんな反応をするだろな、スカイツリーを見たら腰を抜かすんじゃないかな、と楽しい想像ばかりしていたが、自分が言ったように、日本には負の側面もしっかりとある。
 残念ながら、差別はそう簡単には無くならないだろう。もしかしたら、クラリスが日本にいるときに差別を経験させてしまうかもしれない。想像しただけで心が痛む。しかし、万が一そんな事態になったとしても、クラリスが病院で泣きながらマラリアの私のために抗議してくれたように、私もいかなる手段を使ってでも彼女を守ってみせる。このたった少しの会話で、自分がいかにクラリスが好きで大事に思っているかに気がついた1日であった。